〈特報〉高校ラグビー5度優勝の常翔学園 女性監督が花園で誓う「名門」再起

選手たちの練習を見守る、常翔学園高ラグビー部の平池三記監督(左奥)=12月13日、大阪市旭区(柿平博文撮影)
選手たちの練習を見守る、常翔学園高ラグビー部の平池三記監督(左奥)=12月13日、大阪市旭区(柿平博文撮影)

第102回全国高校ラグビー大会が27日、大阪府東大阪市の花園ラグビー場で開幕する。過去5度の全国制覇を誇る名門、常翔学園(大阪第1)を率いるのは平池三記(みき)監督(53)。部員の不祥事で引責辞任した前監督の後任として、9月に就任した同校初の女性指揮官だ。副部長から立場を変えて臨む大舞台を前に「一戦一戦勝ち上がり、優勝を目指す」と意気込んでいる。

不祥事を乗り越え

12月中旬、同校北側の淀川河川敷にあるグラウンド。平池監督はコーチ陣と軽く言葉を交わすと、すぐさまゴールポスト付近へ向かい、ランパスを始めた選手たちを真剣なまなざしで見守った。

「しんどいときに誰が一番頑張れるか、誰が仲間に声をかけられるかを見ている。円陣では『頑張って』と言うだけです」

強豪を率いる大役を任されたのは、部員の不祥事がきっかけだった。7月、部員の男子生徒3人が女性の着替えを盗撮。3人は事実関係を認めて8月に自主退学し、当時の野上友一監督が不祥事の責任を取って辞任する事態となった。

全国大会の予選を控える中、思わぬ不祥事に部は揺れた。誰が後任監督となるのか。当時副部長だった平池監督はためらいながらも覚悟を決めた。

「私がやりましょうか?」

部にはOBのコーチが約10人いるが、専任教諭は野上前監督と平池監督の2人だけだった。「やるしかない。コーチもいるし、大丈夫やろと」

選手たちの練習を見守る、常翔学園高ラグビー部の平池三記監督=12月13日、大阪市旭区(柿平博文撮影)
選手たちの練習を見守る、常翔学園高ラグビー部の平池三記監督=12月13日、大阪市旭区(柿平博文撮影)

チームは大阪第1地区のシード校として準々決勝から登場。初戦、2戦目ともに100点ゲームで大勝すると、決勝では関大北陽を21-0で下し、8大会連続41度目の全国大会出場を決めた。

「お母さん的存在」

全国有数の強豪を率いる平池監督だが、ラグビーはもちろん、スポーツ経験すらないに等しい。大阪教育大を卒業後は一般企業の営業職、公立高校教員を経て、1999年に前身の大阪工大高へ数学教師として赴任。同校がラグビーの名門であることをそこで初めて知った。

2年後、前監督から誘われて夏合宿を手伝ったことをきっかけに副部長に。合宿の手配や事務処理をするようになり「気が付いたら20年たっていた」と笑う。

監督として96人の部員とどう向き合えばいいか、自問自答を繰り返す日々だ。不祥事が起きた背景について「普段のルールに甘いところがあったのかもしれない」と考え、モラルやマナーの順守を口酸っぱく求め続ける。最近、個々の性格やコンディションを把握するツールとして「ラグビーノート」を始めたのは、彼らの心の内側をのぞこうという意図もある。

主将のSH田中景翔(けいと)選手は平池監督について「お母さん的存在で見守ってくれている。外から見ていて、チームに足りないところを客観的に言ってくれる」と感謝する。ラグビー部の女性監督は全国的にも珍しいが、「試合をするのは僕たち。最後は監督を胴上げしたい」と言い切った。

伝統の重みを実感

思いがけず監督に就任して約3カ月。花園通算100勝、全国制覇5度と輝かしい実績を誇る伝統の重みを、平池監督はひしひしと感じているという。

練習で汗を流す常翔学園高のラグビー部員ら。右は田中景翔主将=12月13日、大阪市旭区(柿平博文撮影)
練習で汗を流す常翔学園高のラグビー部員ら。右は田中景翔主将=12月13日、大阪市旭区(柿平博文撮影)

その一つがOBによるバックアップであり、河川敷を散策する地域住民からの応援だ。「常翔学園ラグビー部は多くのOBが支えてきた、いわば身内ばかり。平池監督を支えていこうと盛り上がっています」と話すのはOB会長の中川大(まさる)さん。平池監督は先日、近所の男性から練習中に声をかけられ「探しとった。頑張りや」と手作りのキーホルダーをもらったという。

「伝統とは人の思いの積み重ねなのかな。その人たちのためにも、なおさら頑張らないとあかんよね」

平池監督はいずれ、コーチ陣にバトンを渡そうと考えている。ただ、定年の64歳まではラグビー部を見届けるつもりだ。今年度は創部85年誌が創刊される予定で「次の10年は私が記録に残そうと思っている。そのためにも、強いままでいなければ。(伝統は)守らなあかんものやから」。

今大会でBシードに名を連ねる常翔学園は30日の2回戦から登場し、朝明(三重)-尾道(広島)の勝者と対戦する。「日本一になります」。女性指揮官の挑戦がまもなく始まる。(嶋田知加子)

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