政府は16日、国家安全保障戦略など新たな「安保3文書」を閣議決定した。敵ミサイル拠点などへの打撃力を持つことで攻撃を躊躇させる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記。複数の長射程ミサイルを令和8年度から順次配備する。来年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、インフラ整備など防衛力を補完する予算を含め、9年度に対国内総生産(GDP)比2%に達することを目指すとした。軍備増強を進める中国の動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記した。
文書は、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識を示した上で、中国や北朝鮮を念頭に「力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」と指摘。反撃能力保有をはじめとする防衛力強化の重要性を訴え、一連の施策が「安全保障政策を実践面から大きく転換する」と強調した。約43兆円の防衛費は、平成30年に閣議決定した5年計画の約1・6倍に当たる。
防衛力強化にあたっては「相手の能力と戦い方に着目した防衛力」を目指すと説明。宇宙・サイバー・電磁波などの新たな領域と陸海空を有機的に融合する「多次元統合防衛力」を構築する方針を維持し、さらに強化するとした。今後5年は現有装備の稼働率向上などに集中し、10年後までに「より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除」できる防衛力を目指す。
一方で専守防衛を堅持する姿勢は明示した。「必要最小限度の実力行使」などの武力行使の3要件を満たした場合に限って反撃能力を行使できると規定した。
サイバー戦やハイブリッド戦への対応の必要性にも言及し、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」を導入する方針を盛り込んだ。宇宙領域に関しては航空自衛隊に専門部隊を設け、空自の名称を「航空宇宙自衛隊」に変更する。防衛装備品の輸出拡大を図るため、輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針見直しを検討することも記した。
3文書は最上位文書である国家安全保障戦略、防衛の目標と達成手段・方法を記した「国家防衛戦略」、保有すべき防衛力の水準を示す「防衛力整備計画」で構成される。今回の改定で、現行の大綱を国家防衛戦略に改称。大綱の一部と中期防の内容は防衛力整備計画にまとめた。