解体、売却、それとも…どうする住まいの〝終活〟  増える空き家 官民連携で解決策探る

全国で空き家の増加に歯止めがかからない。長年、放置されたままでは景観や治安に影響し、地域の活力も損なうだけに、対応に苦慮する自治体にとって喫緊の課題だ。解体、売却、賃貸…。空き家対策のノウハウを持つ民間組織と連携し、解決の糸口を探るとともに、空き家発生を抑えようと相続問題を含めた準備、いわば住居の〝終活〟の啓発に力を入れ始めている。

10月、全国古民家再生協会と全国空き家アドバイザー協議会県古河支部と協定を結んだ茨城県古河市。空き家の発生抑制や有効活用に向けて官民で協力するのが目的だ。増える空き家に危機感を募らせるものの、市には「不動産に関する専門知識を持つ職員が少ない」(市交通防犯課)。空き家対策も近隣の苦情を受けた物件に対応する待ちの姿勢が目立ったが、官民連携を機に、利活用を積極的に促すなど空き家の早期発見にかじを切った。

「どこに相談すれば…」

市内の空き家は3460軒(平成30年度)と、5年前の1・3倍。増加傾向を食い止めるため、市が重視しているのが空き家の発生を抑える「住教育」だ。家族で話し合うなど空き家にならないよう準備してもらおうというわけだ。

協定締結後に開催したセミナーもその一環だが、「実際は『どこに相談すればいいのか』『相続をどうすれば…』など、予想以上に空き家に困っている人が多かった」(古河支部事務局)という現実が改めて浮き彫りになった。

総務省の調査によると、平成10年に全国で576万戸だった空き家は30年、1・5倍の849万戸に。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)も30年は13・6%と過去最高。ちなみに、全国トップは山梨県の21・3%。「理由は分からない」(県住宅対策室)が、富士山麓の別荘が「空き家」と認定されているケースが多いようだ。

東北6県は12~16%で推移している。全国的に空き家数、割合ともに右肩上がりで、約10年後には空き家率が30%を超えるとの民間調査の予測もある。3戸に1戸が空き家という近未来について、全国空き家アドバイザー協議会本部の山名健太さんはこう解説する。

「30%を超える事態は、北海道夕張市に代表されるように自治体の財政破綻の入り口といわれている。人口が減り、税収が減り、市街地のインフラも劣化する。その結果、『ここには住みたくない』となって人口減少に拍車がかかる悪循環に陥ってしまう」

国土交通省も空き家対策に乗り出している。10月下旬に有識者会議の初会合を開催した。民間組織と連携し、空き家の発生を抑え、有効活用を進める仕組みの構築を目指す。具体的には居住者が亡くなり、遠くに住む人や活用を考えていない人が相続する際のほか、購入・賃貸を希望する人の相談に応じる仕組みを想定している。

発生抑制と有効活用

政府はこれまで倒壊の危険性や景観の悪化が著しい空き家について、自治体が主導して撤去する制度を設けるなど、解体が基本的な解決方針だった。しかし、自治体主導で強制的に解体しようにも費用回収が難しいなどハードルは高く、発生抑制と有効活用にシフトしつつある。

有効活用策として注目されるのが新潟県阿賀町の取り組みだ。10年以上も放置されていた築150年ほどの空き家をいったん解体し、今春、栃木県小山市への移築が実現した。町と連携する全国古民家再生協会県連合会などが豪雪地帯特有の民家の梁(はり)や柱に使用する太くて丈夫な木材に着目、再利用できると判断したのが決め手だった。

町は「解体寸前の物件が再生できた」と歓迎する。移築を契機に、新潟市内で別の空き家の丈夫な木材を使ったモデルハウスを着工中だ。全国空き家アドバイザー協議会県阿賀支部は「他地域への移築とともに、町内の空き家を旅館などに活用する現地での再生も進めたい」と話す。

ただ、阿賀町の事例が全国に広がるかは不透明。人口減少が加速する中、「静かなる有事」ともいえる空き家問題は、相続が複雑に絡むなど個々の事情が異なるだけに、解決に向けて官民によるきめ細かな対応が欠かせない。(岡田浩明)

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