松岡恭子の一筆両断

自分の街への誇りを育む オープンハウスネットワークジャパン

松岡恭子氏
松岡恭子氏

自分の街への愛がすごいなあ、とても及ばないなあ、と思わされました。10月に大阪で開催された「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」。「生きた」の名の通り大阪市民の営みを支えてきた100を超える建物を無料公開し、2日間で約5万人もの参加者を迎えたこのイベントは、今年9回目となり、すっかり大阪の秋の恒例となりました。

「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」で公開された「生駒ビルヂング」(大阪市中央区)
「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」で公開された「生駒ビルヂング」(大阪市中央区)

図書館や公会堂など公共の建物、一族が百年間維持してきた自社ビル、レトロな雰囲気満載のテナントビルなど用途もさまざまです。また昭和の雰囲気が色濃い喫茶店や焼肉店など、歴史的面白さがあるインテリア空間も紹介されています。さらに建築設計事務所内部なども公開され、建物をつくる側の仕事を垣間見るのも特別な経験です。事前に出版されたガイドブックを書店で購入し、それを手にまち歩きを楽しむ人々の姿が街中にあふれていました。

何より印象的だったのは、建物所有者がこの「自慢する機会」を楽しみにしていることでした。平成25年から3年間は大阪市の事業として開催されましたが、その後は大学の専門家や建設会社、設計事務所からなる産官学の実行委員会が運営しています。そのプロたちが、自分が所有する建物を価値あるものと選んでくれたことを喜び、市民に気前よく扉を開け、参加者とのやり取りを楽しんでいます。その交流の中で、双方に大阪の街への誇りと愛情が育っていることをうらやましく思いました。

かつて「大大阪」と呼ばれさまざまな産業が大いに栄えた20世紀初頭、この街で文化が豊かに花開き、当時つくられた建築や橋にも華やかな意匠が施されました。太平洋戦争下の空襲による被害が大きかったにも関わらず、これほど戦前の建物が維持されているのは大阪の歴史の灯を絶やさないという「想い」の表れだと思います。

建築を市民に楽しんでもらうイベントがこの10年に日本のあちこちで誕生しましたが、どれもアメリカの「シカゴ建築センター」とイギリスの「オープンハウスロンドン」を参考にしています。シカゴは年間を通して建築ツアーやデザインワークショップなどを開催し、ロンドンは秋の数日間に集中して多くの建物を公開しています。どちらも建築を通して街への誇りを育むにとどまらず、観光の側面からも大きなうねりとなっています。

オープンハウスはロンドンから世界各地に広がり、ヨーロッパの各都市、アメリカ、オーストラリア、そしてアジアではソウルや台北と、50の団体が仲間入りして年間100万人を動員する規模へと成長しました。日本では大阪だけがこの世界的ネットワークに登録されています。

私が活動する「NPO法人福岡建築ファウンデーション(FAF)」は今年満10年を迎えました。地域の魅力ある建築の情報を発信する取り組みは各地で広がり、「東京建築アクセスポイント」「オープンナガヤ大阪」「ひろしまたてものがたりフェスタ」はすでに回を重ね、「京都モダン建築祭」も今年誕生しました。

この秋、東京、大阪、広島、福岡の5つの団体が「オープンハウスネットワークジャパン」と称して連携を始めました。活動内容の共有や各地のイベントの情報発信も相互に行っていきます。FAFのメール会員に登録してもらえると他団体の開催情報も届きますので、今後の旅のきっかけにしていただけると幸いです。

今年出版された「山手線の名建築さんぽ」は山手線の全30駅の周辺の建物を紹介する素敵なガイドブックです。イベントがなくてもこんな本を手にすれば、街歩きが楽しくなること間違いなしです。やはり建築の魅力は実際に訪れてみてこそ、ですから。

松岡恭子(まつおか・きょうこ)】 昭和39年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学工学部卒。東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院修士課程修了。建築家。設計事務所スピングラス・アーキテクツ代表取締役および総合不動産会社、大央の代表取締役社長。NPO法人福岡建築ファウンデーション理事長も務め、建築の面白さを市民に伝えている。令和4年6月から一般社団法人都心空間交流デザイン代表理事。

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