そのいいきっかけとなりそうなのが、先ごろ発売された「シビック タイプR」だ。ホンダ・スポーツの開発に長年関わってきた開発主査の柿沼秀樹さんは、先代のタイプRがよく売れたからこそ、新型の開発にも思い切って予算を投じることができたと語っている。その、新型タイプRが、ただ速いだけでなく、ドライバーに寛容な性格が与えられていることは、すでに鈴鹿サーキットでの試乗記でリポートしたとおりだ。
こうした「多くのファンに受け入れてもらえる」→「会社がうるおう」→「より多くの開発費を投じられる」→「いい製品ができて多くのファンに受け入れてもらえる」という好循環は、残念ながらこれまでのホンダ スポーツの歴史ではあまり見られなかったこと。しかし、こうした流れこそが、ホンダ スポーツのレギュラー化やポートフォリオの構築には必要なはずだ。
先日、鈴鹿サーキットで開催されたF1日本GPでは、ホンダのF1復帰に向けた確かな胎動を感じ取ることができた。「朝令暮改だ!」との声があるのは事実。
でも、ホンダが出ているF1と、ホンダが出ていないF1では、どちらが日本人ファンにとって楽しいかと問われれば、答えは自明の理。私自身は、ホンダのF1復帰を心から期待している。
そして、その裏付けとするためにも、ホンダ スポーツのレギュラー化、ポートフォリオ構築は極めて重要なテーマだと思う。
2022年4月に行なわれた「Honda 四輪電動ビジネス説明会」では、その最後の最後でNSXの後継モデルと思われるイラストがちらっとだけ公開されたけれど、この程度では到底、満足できない。お手軽スポーツからフラッグシップまで、ホンダ スポーツがラインアップ化されることを私は夢見ている。
文・大谷達也 写真・小塚大樹