ハイブリッドシステムが組み合わされたV6エンジンは低回転域でも柔軟な特性が与えられているうえにレスポンスも良好だから、ストップ&ゴーが繰り返される渋滞路でもストレスを感じにくい。したがって実用性は極めて高く、もしも手に入れることができたら毎日乗りたいと思わせるスーパースポーツカーだ。
それでもワインディングロードに足を伸ばせば、鼻先がいかにも軽そうな鋭敏なハンドリングを示してくれるし、路面を捉えるロードホールディング性も優秀なので不安感はゼロ。ロールやピッチといったボディの動きも巧みにコントロールされているので、コーナリングを思いっきり楽しめるはず。V6エンジンが高回転域で発する咆吼も、なんとも刺激的だ。
一般道では快適なのにワインディングロードでも優れたパフォーマンスを発揮できるのは、NSXのボディ骨格がしっかり作り込まれているほか、バランスが良好な車両レイアウト、そして幅広い領域で理想的な接地性を生み出す足回りなどの相乗効果によるものだろう。スポーツカーとしてのこうした基本性能が際立って高いからこそ、標準タイプのNSXはもちろんのこと、限定モデルとして発売されるやいなや、その争奪を巡って一大騒動が巻き起こったタイプSのようなモデルができあがったと推察される。
この辺が、いかにもホンダらしいクルマ作りだと思う。
目指せ! ホンダ スポーツのレギュラー化
1台のスポーツモデルを作るとき、適当なところで妥協することなく、どこまでも性能を突き詰めてしまう。NSXの場合はたまたまいいバランスで落ち着いたけれど、歴代タイプRや初期型「S2000」のような「超とがったスポーツモデル」を作るのがホンダは大の得意。その伝統は、最初期のスポーツモデルである「S600」「S800」にも表れているし、こちらも最終モデルを巡って争奪戦が繰り広げられた「S660」についてもいえる。
どれも性能はバツグンに高く、ある意味で超ピーキーな性格だったせいで、熱狂的なファンを生み出してきた。それがホンダのスポーツモデルと、ホンダ スポーツを愛するファンの関係性だと思う。
そんな、やり始めたらトコトン突き詰めちゃうホンダの姿勢はもちろん大好きだが、いっぽうで、短命に終わったり、販売台数が少なかったりするのも事実。それとともに残念でならないのが、継続的に販売されるスポーツモデルで構成された”ホンダ スポーツ”のラインナップがいつまで経っても出来上がらないことにある。
「いやいや、そんなありきたりなレギュラーモデルは要らないでしょ」というコアなファンの意見もわからなくはないが、スポーツモデルを開発する施設や人員を、散発的なモデルだけのために維持するのは自動車メーカーにとって大変な負担だ。それに、ユーザーが安心して乗り続けられるモデルを提供するためにも、ホンダ・スポーツのある程度のシリーズ化とポートフォリオの構築はとても大切なんじゃないかなと私は思う。