若手優秀人材に見捨てられる企業、選ばれる企業
実際に在宅勤務を週3日まで認め、コアなしフレックスタイムを導入している建設関連会社の人事担当者はこう語る。
「自由度の高い働き方を前面に打ち出しているわけではないが、転職志望者の決め手の一つになっているようだ。最近入社した中途採用者にインタビューすると結構喜んでいる。特に女性は『結婚してから育休に入ったときのことを考えるとリモートワークができるのは魅力的です。また、フレックスタイムなので時間の使い方も自分の裁量でできるのでありがたいです』と言っていた」と語る。
自由度の高い働き方を人材の定着や採用戦略の1つに据えているのが前出のヤフーだ。国内のどこにでも自由に居住できる新制度の開始後、130人超の社員が飛行機や新幹線で通勤する遠隔地に転居。最も多い転居先が九州、次いで北海道、沖縄の順だったという。東京本社に勤務する約7000人のうち、約400人が1都3県以外(遠隔地も含む)の地域に移ったそうだ(『日本経済新聞』2022年8月30日付朝刊)。
人材の採用においても導入前の2021年9~12月と、導入後の22年4~7月を比較すると、中途採用の応募者数が6割増加。全体の応募者数のうち約3割が1都3県以外の地域だったという。
企業の競争力に、深刻な影響も
人材の獲得は中途採用者に限らない。地方の優秀な新卒を獲得しやすいというメリットもある。USEN-NEXT HDは22年卒の採用に関し、新潟県長岡市と共催し、長岡市の大学などの学生を対象に正社員として採用。地元でリモートワークを行う「長岡ワーカー」制度を創設したところ、7人の内定者が出るなどリモートワークが人材獲得にも大きく寄与している。
住谷猛執行役員は自由度の高い働き方が人材の獲得する上でも有利になると語る。
「リモートワークが増えたことによって、在宅中に転職志望先のオンライン面接が昼間でも受けることができ、転職しやすい環境になっている。実際に当社の中途入社の面接も昼間行っている。しかも最近の傾向として感じるのは必ずしも金銭報酬の高さではなく、テレワークを含めて自分のライフスタイルに合わせた働き方ができる企業を求める傾向が強くなっていることだ。逆に言えば、そうした働き方が難しい企業は人材競争力を失ってしまう可能性もあるのではないか」
大手企業を中心にIT投資を増やしている。リモートワークだけではなく、ICTツールやデジタルデバイスを使いこなすことによって業務の効率化やビジネスモデルの変革も同時に推進している。一方、IT投資に踏み切れない企業も少なくない。今後、両者の違いがビジネス上の競争力でも大きな格差がもたらす可能性もある。
さらにICTツールを駆使した自由度の高い働き方が可能な企業とそうでない企業とでは、人材の確保が難しいだけではなく、企業の成長を左右する人材競争力を失い、経営にも深刻なダメージをもたらすかもしれない。
著者プロフィール 溝上憲文(みぞうえ のりふみ)
ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。
(ITmedia ビジネスオンライン)