「シャビーな(みすぼらしい)万博にしてはいけない」。資材価格高騰などで上振れが懸念されている2025年大阪・関西万博の会場建設費について、関西経済連合会の松本正義会長が語るときによく口にする表現だ。
関西経済界のトップたちは夏以降、建設費の上振れは現実的にやむなしとの考えを重ねて表明しているが、現在までに建設費を巡る議論に進展はない。このまま突き進めば、来場者をがっかりさせるような万博が現実のものとなる不安を感じざるを得ない。
会場建設費は、国と大阪府・大阪市、経済界の3者が3分の1ずつ負担する。万博を運営する日本国際博覧会協会は当初、約1250億円を見込んでいたが、設計変更などで約1・5倍の約1850億円に増額した経緯がある。ところが、資材価格や人件費の高騰の影響で入札者がいなかったり、予定価格内の応札がなかったりするケースが続出。予算内に収めることは困難との見方が出ている。
苦肉の策といえる設計変更を決断したのが大阪府市などの地元館「大阪パビリオン」だ。網目状の骨組みに多数のガラスをはめ込んだ鳥の巣のような構造で、豊かな自然光を取り入れる構想を大幅に変更。ガラスは安価な樹脂製の膜とし、特徴的な屋根は地上から見える範囲だけとした。
一部で「張りぼてのよう」と揶揄(やゆ)される設計変更により、当初約74億円を想定しながら一時は約195億円まで増額が見込まれた建設費は約99億円に圧縮される見通しとなった。計画発表時に「非常にユニークで、個性的で、大阪らしいパビリオン」と絶賛していた吉村洋文知事も、11月18日のコストダウン発表時は「適切なコスト管理に達した」とばつが悪そうだった。
焦点となっている建設費約1850億円の内訳では、1周約2キロのリング状の大屋根整備(約350億円)が大きな割合を占める。高さ最大20メートルの大屋根は来場者が歩くことができる。会場を一望したとき、万博が掲げる未来社会を感じさせる新しい景色が広がっていることを願いたい。
予算内に収める努力をし、設計変更などで知恵を絞ることは重要だが限界がある。わびしさを感じさせる万博とならないよう、現実と向き合った議論が必要ではないか。
【プロフィル】井上浩平
平成26年入社。神戸総局を経て社会部で警察、大阪府市の行政を取材し、令和3年10月から経済部。大阪の財界や金融などを担当している。