学生時代から、出場するクイズ番組を次々と制し、「クイズ王」と評される伊沢拓司さん(28)。その豊かな知識力は、知らないことを「知りたい」との素朴な思いに育まれてきたといいます。関心の幅がまだ狭かった少年期。何げなく眺めていた新聞は好奇心の種となり、いつしか、自身の成長を支える枝葉になりました。〝学びを楽しむ大人〟に、新聞の魅力や、付き合い方を聞きました。
新聞との出合いは小学校低学年の頃。実家で取っていた小学生新聞を読み始めたところからでした。
ただ、当初は「読む」といっても4コマ漫画を楽しむ程度。それでも、定期的に新聞が届く環境を与えられていたことで、得られた「出合い」がありました。
ひとたび新聞を開くと、さまざまな見出しが目に飛び込んでくる。徐々に「挿絵」付きの短く簡単な記事が目にとまるようになり、何げなく読んでみると「ああ、面白いんだ」と知るようになります。
そんな体験を積み上げる中で、生き物やスポーツなど興味を持てる記事から読むようになり、読む領域が少しずつ広がっていきました。
ライトな入り口から
私は「楽しいから始まる学び」を掲げ、教育コンテンツを配信するウェブサイト「QuizKnock」を主催しています。制作・配信しているコンテンツは「ただただ面白い」というものばかりなのですが、そういった動画の中に、数学について楽しげに話す人など、いくつかの「勉強の入り口」も入れておく。すると、関心の低かった数学に親しみを抱いてくれたり、勉強が楽しくなったりする子も出てきます。
知識を得ることは、どこかおっくうなことだと思われがちですが、楽しみながら得た情報は学びの入り口になり得ます。100個用意したうちの1つでも心に残れば、そこから興味を広げたという成功体験で向学心が育つはずです。
新聞との付き合い方も、スタート地点は同じことがいえると思います。初めから「勉強になるから」などと考えていたら疲れるだけ。最初は「4コマ漫画を楽しむ」で十分だと思う。ライト(軽い)な入り口から入って、意義なんて、後から生まれればいい。
面的な広がりを活用
子供時代から新聞は当たり前のように傍らにありました。父は複数の新聞を取って読み比べていましたし、私も食事の合間、テレビのCM中などに片手間で新聞を拾い読みしていました。
新聞の情報には「面的な広がり」があります。見出しの大きさや紙面の割き方から、そのニュースの重要度を知ることもできますから、知りたい深さを自分で選べるのもいいですね。
自分のペースで解釈しながら読むことができるのもいいですね。1面で扱われているニュースをもっと知りたければ、3面に解説記事が用意されていることもあります。記事に関連図表や地図が添えられていることも多く、ニュースを多角的に捉えてもらうための工夫も随所にみられます。
私はクイズの歴史に関する本の執筆なども行っており、過去の新聞記事を参考資料として使うことがよくあります。古くなると消えていってしまう情報も多いネットに対し、新聞は良くも悪くも一度紙面になったものはアーカイブされて残っていく。資料的な価値の高さも感じています。
スローな情報の価値
ネットニュースや交流サイト(SNS)など若い人たちを中心に親しまれているメディアには速さが求められ、時間とともに新しい情報が次々アップされていきます。そのため、情報の受け取り方は、パッシブ(受け身)とならざるを得ない側面がある。
一方の新聞は比較的「情報を得る側に主導権があるメディア」といえるのではないでしょうか。時間がないときには気になった記事だけ拾い読みもできるし、専門家の見解なども踏まえながらニュースをじっくりと知ることもできる。
情報との付き合い方として、「ファスト(速い)」だけではなく「スロー(ゆっくり)」なメディアも併用していくことが今こそ大事です。
そして若い人に知っておいてほしいのは、各新聞には論調、つまりは「偏り」があるということ。もちろん各メディアは公正を目指すべきだけれど、完全に偏りを無くすことは不可能だからこそ、偏りを前提として読むことでさまざまな視点に触れられるはずです。複数の偏りを相対的に摂取して、自分の意見の糧としてください。
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伊沢流 読むポイント
・まずは読みたいところから
・面的広がりを意識し、図表なども見てゆっくり読む
・「偏り」を前提にさまざまな視点に触れる
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いざわ・たくし 平成6年、茨城県生まれ。東京大経済学部卒。28年に「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたウェブサイト「QuizKnock」で編集長を務め、現在は主に「YouTube」動画に出演。「東大王」「アイ・アム・冒険少年」をはじめとするテレビ番組にレギュラー出演するほか、全国の学校を無償で訪問するプロジェクト「QK GO」を行うなど幅広く活動中。