新型コロナウイルスからの経済回復が進むタイで、政治対立が水を差すのではないかとの懸念が広がっている。2000年代以降続いたタクシン元首相派と反対派の対立に加えて、軍政の流れをくむ現政権に敵対する動きが与党内にも顕在化しているためだ。
タイの国内総生産(GDP)の成長率は、今年第3四半期(7~9月)が前年同期比4.5%となり、大きく改善した。街の人出も増え、消費も活発化している。日本格付研究所が11月に発表した外貨建て長期発行体格付けもAマイナスからAに引き上げられている。15兆バーツ(約55兆円)目前だった総家計債務も減少に転じ、90%超あったGDP比率も年内に最大85%まで縮小される見通しだ。
これに悪影響を及ぼすとされるのが政治対立だ。その最大が、来年3月に任期満了となる下院および新首相選出の行方だ。14年のクーデターから政権にあるプラユット首相は、憲法裁判所の判断で25年4月までしかその職を務められない。国軍色の強い上院議員が関与できる首相の選出規定も、次期選挙後には失効する。同氏を候補者とすれば任期途中で野党に政権を奪われかねない。与党内に首相を引きずり下ろそうという動きがあるのはこのためだ。