アディショナルタイム

頂上からの「新しい景色」渇望するオランダ

オランダ代表イレブン=ドーハ(共同)
オランダ代表イレブン=ドーハ(共同)

サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会は2大会ぶり出場のオランダが9日未明に準々決勝でアルゼンチンと対戦する。

「オレンジ軍団」に対しては、複雑な感情がある。ポルトガルで開かれた2004年の欧州選手権の際には、陽気なサポーターにビールをごちそうになったり、真夜中のリスボン郊外で道に迷ったところを助けてもらったりした。一方で、06年W杯ドイツ大会では、試合後にニュルンベルク中央駅の駅前でタクシーの順番待ちをしていたら、酔っ払ったオランダサポーターの若者3人に割り込まれ、注意すると、囲まれて胸ぐらをつかまれた嫌な思い出がある。殴られるかと覚悟したが、周りにいたポルトガルのサポーターが加勢してくれて事なきを得た。

そのときの話。往年の名選手、マルコ・ファンバステン監督率いるオランダは決勝トーナメント1回戦でポルトガルと対戦した。結果的に1-0でポルトガルがオランダを下して勝ち上がったが、両チーム合わせてイエローカード16枚、レッドカード4枚が掲げられる荒れた試合となった。

勝利し喜ぶオレンジ色のオランダサポーター=ドーハ(共同)
勝利し喜ぶオレンジ色のオランダサポーター=ドーハ(共同)

特に前半23分にポルトガルが先制してからは、アリエン・ロッベン、ロビン・ファンペルシー、ディルク・カイトら若い選手の多いオランダのラフプレーが目立つようになり、ポルトガルも報復する形でエスカレートしていった。「この試合は、経験不足のチームにとっては難しかった」と振り返ったファンバステン監督。駅でのひと悶着(もんちゃく)も、試合展開と無縁ではないだろう。

2年後。成熟したオランダはスイスとオーストリアの共催だった欧州選手権で圧倒的な強さを見せたが、準々決勝で母国の名将フース・ヒディンク監督率いるロシアに屈した。充実のオランダ対ヒディンク監督のロシアの一戦は、これまで見てきた中でも屈指の好ゲームだった。主力がそのまま残ったオランダは10年のW杯南アフリカ大会でも決勝まで進みながら、スペインに敗れてW杯3度目の準優勝に終わった。

オランダほどの強豪ですら3度決勝の舞台に立ちながら、いずれも敗退。1度も優勝できていないところにW杯のすごみがある。オランダは頂上から見下ろす「新しい景色」を渇望している。(編集委員 北川信行)

取材した過去のW杯や欧州選手権でのエピソードを紹介します。


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