〈特報〉保育所で相次ぐ虐待 人材不足も一因か 専門家「国は待遇改善を」

静岡県裾野市の私立保育園での暴行事件をはじめ、各地の保育施設で不適切な行為が相次ぎ発覚している。耳を疑うような暴言や虐待というしかない暴力をなぜ、子供たちの健康と安全を守るべき保育のプロが犯してしまうのか。

園児を宙づりにした後、真っ暗な排泄(はいせつ)室に放置。寝かしつけた園児に「ご臨終です」と言い放ち、カッターナイフを見せて脅す―。裾野市の私立保育園で明らかになった虐待行為は、保護者を震撼させた。暴行容疑で逮捕された保育士の女は「新型コロナウイルスの影響で業務が増え、突発的にやった」と供述した。

国が定めた児童福祉施設の運営基準では、入所児童への虐待など「心身に有害な影響を与える行為」を禁じている。だが同園だけでなく、富山市や仙台市の保育施設でも暴行を加えたり下着姿で食事をさせたりする不適切保育が次々と明らかになった。

こうした状況について、保育施設を運営し、厚生労働省の児童虐待防止に関する専門委員会の委員を務めた加賀美尤祥(かがみ・ゆうしょう)氏は「氷山の一角」とみる。

その指摘を裏付けるようなデータがある。厚労省が令和2年度に実施した調査研究の報告書によると、元年度に全国の自治体が確認した不適切保育は、96自治体で345件あった。調査研究では不適切保育について、子供一人一人の人格を尊重しない▽脅迫的な言葉がけ▽罰を与える▽子供一人一人の家庭環境を考慮しない▽差別的な関わり-などと例示し、都道府県や市区町村にアンケートした。

加賀美氏によると、不適切保育の要因として、保育施設の定員増と保育士の不足が挙げられる。

希望しても保育所などに入れない待機児童の解消に向け、国が保育施設の整備を進めた結果、定員は今年4月時点で304万人(前年比約2万7千人増)に上り、待機児童数は平成6年の統計開始以来最少の2944人(同2690人減)となった。

一方で、令和3年の厚労省調査によると、保育士に支給される月給は全産業平均と比べ8万円ほど低いというデータも。保育士の有効求人倍率は今年7月時点で2・21倍と、全職種平均の1・26倍を上回り、各施設が求人に苦労しているのが現状だ。

国の配置基準では、保育士1人が受け持つ0歳児は3人、1~2歳児は6人などと定められている。だが、コロナ禍で感染防止策などの業務量が増えており、保育の質を確保する観点からは、配置基準よりも多くの保育士が連携して業務に当たることが不可欠という。

加賀美氏は「国は配置基準の見直しを含め、保育士の待遇を早急に改善すべきだ。そうしなければ慢性的な人材不足は解消されず、どの施設でも虐待は起こりうる」と警鐘を鳴らしている。

国は自治体への迅速報告を要請

厚労省は静岡県裾野市の私立保育園での暴行事件を受け、都道府県などに通知を出し、保育施設が虐待疑い事例を把握した場合は、自治体へ速やかに報告することを周知するよう求めた。事件では園側から報告を受けた裾野市の公表が遅れたことに批判が出ており、厚労省は全国の保育施設や自治体を対象に虐待情報への対応を調査し、実態を明らかにする方針だ。

7日付で自治体に出した通知では、虐待など不適切な保育があった場合、隠蔽しない誠実な対応が必要だと強調。園児や保護者への適切なケアが遅れると「子供に対して大きな不利益を与える」と指摘した。

施設側から報告を受けた自治体も、対応方針を迅速に決めるべきだとした。

一般的に自治体は情報提供を受けた際、公立施設であれば調査した上で保育士らの指導や処分を行う。民間には調査と報告を求め、指導や勧告などを出す。悪質な場合は立ち入りを伴う特別監査を実施し、事業停止命令や認可取り消しの措置を取ることが可能だ。

約800カ所の保育施設がある大阪市では4~11月、保護者らから「子供を叱る声が大きすぎる」などの情報提供が数件あり、施設側を指導した。市職員が抜き打ちで施設を巡回することもあるという。

虐待などに関与した保育士の資格はどうなるのか。児童福祉法で保育士は資格取得後、都道府県に登録して勤務できると規定。禁錮以上の刑のほか、児童虐待防止法などに違反して罰金刑が確定すると登録が取り消される。再登録は刑の執行終了から少なくとも2年間はできない。(土屋宏剛)


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