ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では史上初めて稼働中の原発が攻撃の対象になった。日本近海でも北朝鮮による弾道ミサイル発射が相次ぐ中、原発が標的にされる最悪の事態に不安もちらつく。日本の原発は航空機テロなどへの対策を求められてはいるが、他国からの武力攻撃は想定していない。有事への備えに打つ手はあるのか。
有事で標的になる可能性
「攻撃の強度にもよるが、施設で守るのは不可能だ」。10月19日の定例記者会見で、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、原発がミサイル攻撃を受けた場合について、こう断言した。その上で安全規制による対策の限界を示しつつ、「例えば、国民保護法に基づき政府が原子炉を止める命令を発出することは可能」との見方を示した。
原発の心臓部である原子炉は、厚さ約1メートルのコンクリートで覆われた建屋内にあり、放射性物質が外に漏れるのを防ぐ原子炉容器も厚さ約20センチの鋼鉄でできている。テロ対策を秘匿する観点から、規制委も電力事業者もどの程度の攻撃に耐え得るか、公表はしていない。
とはいえ、仮に炉心への攻撃を防ぐことができたとしても、原子炉を冷却する外部電源が甚大な被害を受ければ、運転停止後も燃料を冷やせず、福島第1原発事故のようなメルトダウン(炉心溶融)に至るリスクもある。また、原発敷地内には使用済み燃料を屋外で貯蔵する施設があり、施設が破壊されれば、汚染は免れない。