小林繁伝

「心の差」が生んだ逆転満塁弾…巨人が王手 虎番疾風録其の四(123)

逆転満塁本塁打を放った巨人の淡口を出迎えるナイン=昭和5110月12日、後楽園球場
逆転満塁本塁打を放った巨人の淡口を出迎えるナイン=昭和5110月12日、後楽園球場

大江戸決戦〟の第3戦は、追い詰められた阪神・吉田監督と、勢いに乗る巨人・長嶋監督との微妙な「心の差」が勝敗を分けた。


◇10月12日 後楽園球場

阪神 202 020 100=7

巨人 000 602 00×=8

(勝)加藤14勝4敗8S 〔敗〕安仁屋10勝4敗10S

(本)掛布㉕(新浦)㉖(加藤)淡口⑩(安仁屋)ラインバック㉑(加藤)田淵㊴(加藤)


試合は阪神が先手を奪った。一回、硬くなった新浦から掛布が先制2ラン。三回にはラインバック、田淵の安打を足場に2得点。序盤で4点のリード。四回、長嶋監督はベンチ前で円陣を組んだ。

「何をやってるんだ。谷村はいつも打ち込んでいる投手じゃないか。球が低めにきているのは彼の調子がいいからじゃない。きゅうきゅうとして投げているから〝おじぎ〟しているだけ。いつも通り打てばいいんだ」

長嶋監督の言葉は魔法のように効く。張本が中前打、王が四球で歩いて無死一、二塁。柳田、ジョンソンが倒れ2死となったが、吉田、河埜のタイムリーでまず2点。さらに代打原田が四球を選んで満塁で「1番」淡口に打順が回った。

たまらず吉田監督が飛び出し、投手交代を告げる。このとき淡口は「左の山本だろう。イヤだなぁ」と覚悟していたという。だが、吉田監督のコールは右腕の安仁屋。打席の淡口は「しめた」とほくそ笑んだ。「安仁屋ならタイミングが合う。スライダーを狙おう」

1―0からの2球目、そのスライダーが来た。狙いすました淡口の打球は右翼席へ飛び込む逆転満塁ホームラン。王や張本、原田に河埜…巨人ナインが笑顔で待つホームへ淡口は駆け込んだ。

「狙い通りです。でも、どうして山本じゃなかったんでしょう」と試合後の淡口はしきりと首をひねった。

試合は阪神が五回に掛布、ラインバックの連続本塁打で再び同点に追いついたものの、六回2死二、三塁で張本の一ゴロをブリーデンが痛恨のトンネル。

大江戸決戦は阪神の2敗1分け。巨人が〝王手〟をかけた。

「みんな一生懸命にやりましたわ」

吉田監督はこう言うのがやっと。

甲子園で長嶋監督が宙に舞うのか。それとも、猛虎が最後の意地をみせるのか―。決戦の舞台は〝なにわ〟に移った。(敬称略)

■小林繁伝124

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