いつの頃からだろう。友人たちとの会話の話題が、子育てや仕事から、身体の具合や飲み薬のことに変わっていったのは。
わが家でも朝の薬が欠かせなくなった。朝食を食べ終えてしばらくして、「薬のんだっけ」とゴミ箱をのぞいて飲みがらをさがすこともしばしばである。
飲み忘れない良い方法はないものかと考えて、思いついた。朝食の珈琲カップの横に、ひと皿添えてみようと。
5センチ角ほどに切った厚紙をお皿に見たてて、まん中に「くすり」と書いて食卓に添えた。確かに目立つけれど、なんだか味気ない。
そこで、絵の得意な小学生の2人の孫たちに絵を描いてもらうことにした。注文はふたつ。インパクトのある色づかいと「くすり」の3文字を入れること。
またたく間に4枚のカードができあがった。
緑色をしたびっくり顔のカエルさん、ちょっと怒ったような顔のピンクのブタさん、ハーイと手をあげた黄色のコネコ、にこにこ笑ってる真っ赤なリンゴ。
あるときは厳しく、あるときはやさしく「薬を忘れないでね」と呼びかけてくれる。
描いてくれた絵の向こうに、いろんな情景が見えてくるようだ。孫たちに感謝しながら、さあ今朝はどのひと皿を添えようかな。
井上和子(68) 奈良市