囲碁界初「師匠は母」のプロ棋士、来春誕生へ

令和5年度の日本棋院新入段棋士に決まった桑原樹新初段と重川明司新初段(右から)
令和5年度の日本棋院新入段棋士に決まった桑原樹新初段と重川明司新初段(右から)

囲碁の日本棋院は令和5年度に東京本院に所属する新入段棋士2人が決まったと発表、7日にそろって会見した。来年4月1日付でプロ入りするのは桑原樹(くわばら・いつき)さん(14)=東京都=と重川明司(しげかわ・あかし)さん(16)=神奈川県。桑原新初段の師匠は母である桑原陽子六段(48)で、日本棋院によると、母親を師匠に持つ棋士は初めてとみられる。

プロ志望者同士がリーグ戦形式で対局する冬季棋士採用試験で、14勝1敗の1位となった桑原新初段は「世界で戦える棋士になりたい」と目標を語った。また、11勝4敗の2位で合格した重川新初段は「最後の挑戦と決めていたのでうれしい」と喜んだ。

桑原新初段は令和元年10月、プロを目指す日本棋院の「院生」になった。昨年の試験(対局)は7勝8敗と負け越したが、今年は初戦を落として以降全勝でプロ入りを決めた。

父親を師匠にする棋士は仲邑菫三段(仲邑信也九段門下)や張心澄(こすみ)初段・心治(こはる)初段(張栩〈ちょう・う〉九段門下)がおり、母親をプロ棋士に持つのは徐文燕(じょ・ぶんえん)初段(母は金艶四段、光永淳造六段門下)らの例がある。創立98年の日本棋院によると、「戦前の記録が一部抜けているが、プロである母親を師匠とする棋士は初めてではないか」という。

5歳のころ、サイズが小さい九路盤で母親に囲碁を教えてもらい、魅力にとりつかれたという桑原新初段。小学2年の頃には、一力遼棋聖や芝野虎丸名人も腕を磨いた洪清泉四段の道場に通うようになり「プロになるしかないと思うようになった」。

桑原陽子六段
桑原陽子六段

昭和の時代には師匠宅に住み込む内弟子制度が健在で、木谷実九段(1909~1975年)のもとに大竹英雄名誉碁聖(80)や趙治勲(ちょう・ちくん)名誉名人(66)ら、のちのタイトルホルダーが集結。小・中学生が囲碁で切磋琢磨(せっさたくま)するだけでなく、日常生活も厳しくしつけられたという。平成に入ると、数年間で1千局超の練習碁を課した石井邦生九段(81)のもとから、井山裕太三冠(33)がプロ入りを果たしている。一方で、芝野名人のように直接の師匠を持たない棋士もいる。

プロを目指す場合、女性だけで対局する「女流棋士採用試験」があるが、桑原六段は男性も交じった試験で平成8年に合格している。「一般枠」と呼ばれる採用で入段した女性棋士はこれまで4人のみ。12年には女流本因坊のタイトルを獲得した。さらにここ10年ほどは、青山学院大学で囲碁の講義を受け持つなど、指導にも定評がある。

桑原六段からは「毎日欠かさず囲碁の勉強をするように。謙虚に礼儀正しく過ごしなさい」とのアドバイスを受けた桑原新初段。「中国や韓国の棋士が強すぎる。井山三冠のように、常に最強手を打てる棋士になりたい」と誓った。

新初段は来年1月から、公式戦に参加できる。母と子が自宅ではなく、対局場で碁盤を挟む機会がやってくるかもしれない。(伊藤洋一)

会員限定記事会員サービス詳細