米中間選挙の上院選で最後となった南部ジョージア州で民主党が共和党との接戦を制した。定数100の1議席に過ぎないが、両党にとり重い意味を持つ。下院を共和党に奪われた民主党のバイデン大統領だが、民主主導の上院を軸に共和党と駆け引きをし、議会審議を進める道が開ける。共和党内では、激戦州に続き伝統的地盤の同州でトランプ前大統領の推薦候補が敗れたことで、「トランプ離れ」が進む可能性がある。(アトランタ 渡辺浩生)
6日、アトランタ市内の投票所。小学校教諭のコーディ・ルビスさんは民主党現職のウォーノック氏に投票した。「人工中絶を擁護しバランスのとれた候補だったから。共和党は候補者の適性にとても問題があると思う」と話した。
連邦最高裁が6月、人工中絶の憲法上の権利を否定して以降、同州でも中絶の是非が重要争点となった。トランプ氏が推薦した共和党候補のウォーカー氏は選挙戦で中絶反対を唱えながら、妊娠した交際女性に小切手を手渡して人工中絶を促していた醜聞が発覚。信頼性に傷がつき、決選投票でも最大の障害となった。
そのウォーカー氏に投票したソフトプログラマーのエミリー・ルシアさんは「人間は誰でもミスをおかすもの。私は中絶反対の立場から支持を変えなかった」と語る。だが、地元の保守系団体理事のティモシー・ヘッド氏は、「ウォーカー氏自身の問題で州内の共和党支持層の8、9%が支持から離れた可能性がある」と敗因を分析した。
下院こそ共和に多数派を奪われた民主だが、上院は51議席を押さえ、共和の49を上回った意味は大きい。選挙区カリフォルニア州からウォーノック氏の集会に駆けつけたマーク・タカノ下院議員は「われわれは大きなレバレッジ(交渉力)を手にする」と語る。
現在両党で均等に分け合う委員会の委員数が民主の多数となり、重要法案や人事案件の承認が得やすくなる。またバイデン政権の政策は、財政支出に懐疑的な民主党中道派のマンチン上院議員を説得できるかが鍵となってきたが、今後はマンチン氏の合意がなくとも審議を進めることができ、議会運営の自由度は増す。
一方、トランプ氏にとっては推薦候補の総決算が出たことになる。2020年大統領選が「盗まれた」とする主張に賛同する候補の擁立に自ら動いたが、米選挙分析サイトに基づく勝率は、下院こそ91%と高率だが、上院は67%、州知事は48%と振るわなかった。
激戦州の東部ペンシルベニア、西部アリゾナで上院選と知事選を落とし、伝統的な共和の地盤ジョージアでも敗れ、トランプ氏の責任を問う声が共和党内で浮上する可能性がある。
加えてトランプ氏は先月下旬、反ユダヤ的な発言を続ける白人至上主義者とフロリダ州の邸宅で会食していたことが発覚し、党指導層からも「共和党内には白人至上主義者の居場所はない」との批判が出ていた。
黒人のウォーカー氏は4日、アトランタ郊外の集会でトランプ氏に言及せず、「われわれは人の肌の色について話をするが、黒でも白でも黄色でもない米国人に戻るべきだ」と語ったのは、そうした批判を意識したためだとみられる。
集会に参加したポール・スミスさん(70)は、トランプ氏が引き起こすさまざまな問題に「うんざりしている」と漏らし、一部支持者に広がる「トランプ疲れ」を代弁していた。