【ドーハ=小松大騎】サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会で最も注目を集める選手の一人が、ポルトガル代表のクリスティアノ・ロナルド(37)だ。W杯史上初の5大会連続ゴールを決めた世界的エースと8年前、たどたどしいポルトガル語で対話したサッカー少年が日本にいる。「100%の努力を続ければ夢はかなう」。少年はロナルドのアドバイスを胸に厳しい練習や寮生活を乗り越え、高校サッカーで日本一に。少年を鼓舞し、頂点まで導いたスターの言葉とは。
6日(日本時間7日)にあったスイスとの決勝トーナメント1回戦。ベンチスタートとなったエースは後半に途中出場すると、割れんばかりの歓声を受けた。チームは6―1で大勝。悲願の初優勝に向け、8強に駒を進めた。
そんなロナルドを特別な思いで見守るのが、山梨学院大サッカー部の岩岡遼太さん(20)だ。2人の縁は8年前の平成26(2014)年7月、東京・銀座で開かれた健康器具メーカーのイベントにさかのぼる。1万人以上の応募者から選ばれた小学6年生の岩岡さんは、ロナルドにポルトガル語で「僕の夢はサッカー選手になることです」と話しかけた。
「OK。分かるよ」と真っすぐ目を見つめながら答えたロナルド。岩岡さんが「その夢を実現させるためには、どうすればいいですか?」とたどたどしく続けると、集まった報道陣から笑い声が起きた。するとロナルドは険しい表情で遮った。「どうして笑うんだい? 彼のポルトガル語はすごく上手だよ。一生懸命やっているのに笑うことはないだろう」。そして岩岡さんにこう語った。「常に夢を持って、努力を続けること。自分の力を信じて、100%の努力を続ければ必ず夢はかなうよ」
緊張で頭の中が真っ白になっていた岩岡さんは「後からロナルド選手が、自分をフォローしてくれたことに気づいた」と振り返る。
憧れのスターからもらった金言は、後のサッカー人生の大きな支えとなった。
強豪の山梨学院高に進んだが、慣れない寮生活や厳しい練習に何度もくじけそうになった。その度にかみしめたのが、ロナルドの言葉だった。
3年時に全国高校サッカー選手権の登録メンバーに選ばれると、2回戦では途中出場ながら堅実な守備で勝利に貢献。3回戦は先発出場を果たしたが、途中で負傷交代した。悔しさが募ったが、決勝はスタンドから応援し、チームは11年ぶり2度目の優勝を飾った。仲間とともに金メダルを受け取り、トロフィーを掲げた岩岡さん。「ロナルド選手の言葉が支えになって、しんどい練習にも一生懸命取り組めた」と語る。
高校サッカーで日本一のメンバーになった岩岡さんのニュースは、海外のメディアも大々的に取り上げた。まだロナルド本人からのリアクションはないが、岩岡さんは感謝の気持ちがいつか本人に伝われば、と願っている。
山梨学院大に進学し、プロ選手を目指している岩岡さん。カタールの地で輝くロナルドはいつまでも大きな目標だ。「自分もサッカーを続けている限り、あきらめません」。努力を続ければ夢はかなう―。スターからもらった言葉はいつまでも色あせない。