スポーツ茶論

渋野の信念と今と未来 清水満

LPGAツアー選手権リコー杯の初日16H、10位タイで終了した渋野日向子=宮崎CC(中島信生撮影)
LPGAツアー選手権リコー杯の初日16H、10位タイで終了した渋野日向子=宮崎CC(中島信生撮影)

人は時に迷ったり、苦しんだりするものである。スポーツの世界では、より顕著になる。結果を出せば自信となるが、出なければ、不安が襲う。ゴルフ界の〝レジェンド〟ジャック・ニクラウスは、こんな言葉を残している。

「あなたが愛しているものを、情熱的になれるものを追求してください。自分の人生を誰かに指示されてはいけません」。加えて「才能よりも情熱のほうが重要である」。

マスターズ6勝を含むメジャー18勝(歴代1位)、ニクラウスの信念である。いま、必死に己と戦う女子ゴルフの渋野日向子の心境であろう。

国内ツアーは2週前のJLPGAツアー選手権リコーカップ(宮崎)で幕を閉じた。米ツアーを終え、参戦した渋野の姿もあった。最終日に7バーディーを奪ったが、最終18番で12メートルを3パットのボギー。通算7アンダーで10位タイに「良かったものがすべて飛んでいった。マジ、いらいら…」と唇をかんだ。

今季は予選会を突破して米ツアーを主戦場とした。米ツアーで23戦し、メジャー大会は4月のシェブロン選手権で4位、8月のAIG全英女子オープンでも3位に入るなどトップ10入りは5度。来季のシード権を確定させたが、9月上旬からの6連戦では、4度カットされるなど、予選落ちはシーズン9度を数えた。

「スタートは良かったが、後半にゴルフの調子と気持ちが並行して落ちていって、もったいない。悔しい1年だった。でも、それはまだ伸びしろがあるということです」

2019年、AIG全英女子で日本人選手として42年ぶりのメジャー制覇。「もっと高みへ」と打法改造に着手したのが21年の開幕前…。再現性を高めるためトップの位置を低く、コンパクトにし、クラブを寝かせて下ろすスイングに変えた。

飛距離は格段に伸びた。リコーカップではドライバーの平均は260・875ヤードで笹生優花(264・125ヤード)に次ぐ2位。飛ばし屋の原英莉花、渡辺彩香らをしのいだ。「そこはうれしいけど、まだドライバー以下の安定感がない」とアイアンの精度など、発展途上を自覚する。時折周囲から「元のスイングに戻した方が…」との雑音を聞くが、道を変えるつもりはない。

今季、米ツアー年間王者となったリディア・コ(ニュージーランド)がいる。今年7月のスコットランド・オープン予選ラウンドで渋野と同組になった。「彼女の新しいスイングはとてもアスレチック」という言葉を外電などで伝え聞いた。ツアー19勝のコも打法改造などを乗り越え、見事復活。世界ランキング(11月28日付)では約5年半ぶりに1位に返り咲いた。コより1歳年下の渋野にとって心強い存在だろう。

何より渋野のよさである笑顔は変わらないのもいい。ギャラリーの声援に応える選手は数多いが、渋野流は独特である。「ファンと目を合わせるようにしているんです」。渋野と目が合ったら、ファンはたちまちとりこになるだろう。より大きな声援が生まれ、「すごく力をもらっている」。ポジティブさを失わない渋野のエネルギー源なのである。

「高い壁があると思いますが、自分を信じて頑張りたい」と来季へ向け渋野がつぶやいた。ニクラウスはこうも言った。「どんな状況に陥っても決してあきらめないこと」。信念を曲げない姿勢、きっと未来が見えてくるはずである。

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