手のひら返しにも「強メンタル」 ユーチューバー次男が語る森保監督

クロアチア戦の前半、指示を送る森保一監督=アルジャヌーブ競技場(村本聡撮影)
クロアチア戦の前半、指示を送る森保一監督=アルジャヌーブ競技場(村本聡撮影)

長い旅が終わった。8強にはあと一歩届かなかったが、指揮官は「無駄なことはなかった」と胸を張った。サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会決勝トーナメント1回戦で5日(日本時間6日)、クロアチアに敗れた日本代表の森保一(もりやす・はじめ)監督(54)。痛烈な批判を浴びながらもチームをまとめ、列島を熱狂の渦に巻き込んだ。重圧にも揺るがず、手のひら返しのような批判と称賛の中でも自分を貫いた姿勢は家族の誇りでもあった。

PK戦で屈し、泣き崩れる選手たち。ピッチに進んだ森保監督は選手の肩をたたいて円陣を作り、言葉をかけた。「努力は色あせることはない。この悔しさを次の成長につなげてほしい」。そこには仲間の奮闘を最後までねぎらう、優しき指揮官の姿があった。

LISEMの一員として活動する森保一監督の次男、圭悟さん(圭悟さん提供)
LISEMの一員として活動する森保一監督の次男、圭悟さん(圭悟さん提供)

2018年、カタール大会を目指す代表監督に就任した。勝負の世界には批判がつきもの。「迷惑がかかるかもしれないが、チャレンジさせてくれ」。次男の圭悟さん(29)は、父からこんな連絡があったことを覚えている。

1993年の「ドーハの悲劇」に直面し、Jリーグでも選手・指導者として活躍した森保監督。だが家庭では「普通のお父さん」(圭悟さん)。圭悟さんも元サッカー選手だが、技術的な指導を受けたことはほとんどなく、「(サッカーを)やるんだったら楽しんでやりなさいといわれたくらい」という。

現在はユーチューブでサッカー関連の動画を投稿するグループ「LISEM(リゼム)」のメンバーとして活動する圭悟さん。人気ユーチューバーとして一つの言動がファンから期待や関心を集める中、改めて父の大きさに気づかされるようになった。

手堅過ぎる人選や不可解な采配。父は常に批判にさらされてきた。容赦ない言葉の刃が、圭悟さんの交流サイト(SNS)に向けられたこともある。「いい気はしないけど仕方ない」。指揮官の家族という宿命を感じる日々が続いた。

しかし父はどんな状況でも平常心を保っていた。大一番を控えた日でも何も変わらない。圭悟さんは「自分のやるべきことを、しっかりやりきっているという自信があるからでは」。ぶれないメンタルこそが父の強みだと思っている。

日本は直前の親善試合でも敗れ、カタール大会は閉塞(へいそく)感に覆われたまま始まった。苦戦必至とみられた1次リーグでは選手交代が次々と的中し、優勝経験のあるドイツ、スペインを撃破。決勝トーナメント1回戦でクロアチアに敗れたものの、仲間を信頼し、チームのために汗をかく森保サッカーは集大成を迎えた。

圭悟さんは、批判も称賛も飲み込みながら挑戦を続けた父をこうたたえる。「尊敬しかない」。もっとも森保監督自身も大会前、圭悟さんらについてこう言及していた。「黙って支えてくれた家族に感謝したい」

悲願の8強には到達できなかったが、互いを信じ、目標に愚直である姿は美しかった。「これからもやりたいことを応援したい」。圭悟さんは大仕事を終えた父にエールを送った。(前原彩希)

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