アディショナルタイム

ロナルドの「価値」から測る商売上手なクラブ

韓国戦で攻め込むポルトガルのロナルド(手前)。存在感は健在だ=エデュケーション・シティ競技場(撮影・蔵賢斗)
韓国戦で攻め込むポルトガルのロナルド(手前)。存在感は健在だ=エデュケーション・シティ競技場(撮影・蔵賢斗)

ワールドカップ(W杯)カタール大会でポルトガル代表を牽引(けんいん)する大黒柱、クリスティアノ・ロナルドのプレーを初めて見たのは、2004年の欧州選手権だった。当時19歳。前年に母国のスポルティングCPから世界的なビッグクラブのマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に加入した無口な若者は、デービッド・ベッカムのレアル・マドリード(スペイン)への移籍で空いた背番号7をつけ、将来を有望視されていた。

母国開催の欧州選手権では、ベテランのルイス・フィーゴとの〝共演〟が魅力的だった。ロナルドとフィーゴが両ウインガーを務め、ひたすらドリブルで仕掛ける。ボールを保持してとにかく前に突き進むスタイルにポルトガル国民は熱狂した。決勝で守備戦術を徹底したギリシャに屈して優勝は逃したが、12年後の16年フランス大会でポルトガルは雪辱を果たし、世界的なスター選手となっていたロナルドは栄えあるアンリ・ドロネー杯を掲げた。

ロナルドがマンチェスター・ユナイテッドの一員として来日した08年のクラブW杯でのこと。G大阪との壮絶な打ち合いを演じる数日前に、マンチェスター・ユナイテッドのデービッド・ギルCEO(最高経営責任者=当時)にインタビューした。尋ねたのは、マンチェスター・ユナイテッドがロナルドをはじめとしたスター選手を獲得する理由だ。

ギルCEOは「ピッチでの強さや成績はそれ以外にも波及する。チーム成績が利益を生み出し、利益は投資に回してビジネスに還元され、施設拡充や選手獲得に充てられる。それでチームを向上させ、さらに成功する。投資ポイントは分かっている」と力説した。

計算してみよう。ロナルドがスポルティングCPからマンチェスター・ユナイテッドに加入した際の移籍金は当時の10代の選手としては史上最高額の約23億円とされる。09年にレアル・マドリードに移った際は当時最高額の約123億円。18年のユベントス(イタリア)への移籍時は約153億円。21年のマンチェスター・ユナイテッドへの復帰時は約19億5000万円と最大約10億4000万円のボーナスを合わせて約30億円(いずれも移籍時のレートで円換算)。どのクラブが〝商売上手〟だったのがが分かる。

今回のW杯カタール大会開幕直後、監督との確執がうわさされていたロナルドのマンチェスター・ユナイテッドからの退団が発表された。37歳のスターは今大会で何を得て、どこに向かうのだろう。ロナルドの「価値」は、またまだあるように思う。(編集委員 北川信行)

英雄の教え息づくクロアチア

取材した過去のW杯や欧州選手権でのエピソードを紹介します。

会員限定記事会員サービス詳細