北川信行蹴球ノート

「森保ジャパン」の盛り上がりを日本サッカー界全体の発展につなげるには

日本代表に声援を送るサポーターら。盛り上がりを一過性にしないためには…=アルジャヌーブ競技場(撮影・蔵賢斗)
日本代表に声援を送るサポーターら。盛り上がりを一過性にしないためには…=アルジャヌーブ競技場(撮影・蔵賢斗)

サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会での、日本代表の挑戦が終わった。5日(日本時間6日未明)に行われた決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦は1-1のまま延長戦でも決着がつかず、PK戦の末に敗退。目標に掲げていた8強入り目前で、またも世界の壁にはねかえされ、16強で終わった。

とはいえ、今回は1次リーグでW杯優勝経験国のドイツとスペインを相次いで撃破し、世界に衝撃を与えた。日本国内の盛り上がりも、往時のサッカー人気を取り戻したかのような雰囲気があった。これから日本サッカー協会を中心に、さまざまな検証が行われるだろうが、今回の日本代表のフィーバーぶりをサッカー界全体に波及させる施策が求められる。

千載一遇の好機生かした「森保ジャパン」

試合後、スタンドから日本代表の健闘をたたえるサポーターら=アルジャヌーブ競技場(村本聡撮影)
試合後、スタンドから日本代表の健闘をたたえるサポーターら=アルジャヌーブ競技場(村本聡撮影)

中東のホスト国、カタールでの酷暑を避け、異例の11~12月開催となった今回のW杯は、日本代表の人気回復を図る上では、千載一遇の好機だったと言えるかもしれない。

それは、プロ野球がシーズンオフに入り、投打の二刀流での活躍が連日報じられてきた大谷翔平(エンゼルス)がプレーする米大リーグも終了していたから。めぼしいスポーツイベントが他になかったというと言い過ぎだが、通常の6~7月開催なら強力なライバルになり得る競技がシーズンを終え、W杯に注目が集まりやすい状況だったと言えるのではないだろうか。

もちろん、チーム自体の奮闘が、盛り上がりの一番の要因なのは間違いない。強豪のドイツやスペインを相手にひるまず戦い、反攻に向けた妙手を繰り出すことで、劣勢をはねかえして逆転勝ちを収めるストーリーも「判官びいき」で「柔よく剛を制す」の精神が好きな日本人の心情を揺さぶった。指揮官の森保一監督をはじめ、選手の個性がはっきりしており、キャラが立っていたことも、ふだんあまりサッカーを見ないファンにとっては、とっつきやすかったと言えるだろう。

こうした要因が相まって、テレビの情報番組はW杯一色に染まっていった。

手軽なW杯観戦も手伝い「にわか」急増

今回のW杯全試合を無料配信しているインターネットテレビ局「ABEMA」の日本戦中継に登場した元日本代表、本田圭佑の気取らない解説も人気を集めた。SNS(交流サイト)などでは「本田△(さんかっけー)」といった言葉がトレンド入り。これまではテレビが一般的だったW杯観戦の手法は、ABEMAの登場により様変わりし、スマートフォンやタブレット端末で視聴するスタイルが定着し始めた。生中継だけでなく、見逃し配信やデイリーハイライトをいつでも、好きなタイミングで見られるのも大きかった。

日本代表の躍進+あふれんばかりの情報供給+手軽で身近になったW杯観戦-で大量に生まれたのが「にわかファン」だ。

日本代表に拍手を送るパブリックビューイング会場のサポーターら=東京都港区(桐原正道撮影)
日本代表に拍手を送るパブリックビューイング会場のサポーターら=東京都港区(桐原正道撮影)

「にわか」というと「物事をあまり知らない」「一時的な」といった意味もあり、あまりいいイメージがないが、近年、日本代表人気が低迷する中で日本サッカー協会がのどから手が出るほど増やしたかった「ライト層」のファンのことである。

課題は、今回誕生したライト層のファンの心をつかみ続け、コアなファンへとどう変えていくか。さらにいえば、盛り上がりを日本代表だけでなく、女子日本代表「なでしこジャパン」やJリーグ、女子プロのWEリーグなど他のカテゴリーまで波及させ、日本のサッカー界全体をどう押し上げるかである。

盛り上がりを一過性にしない…

クロアチア戦後のテレビインタビュー。4大会連続のW杯出場となった長友佑都(FC東京)は奮闘を続けた後輩たちをたたえた後に「Jリーグでプレーしている選手たちもいますし、みんなここにいる選手たちはJリーグで育って、海外でプレーしている選手たちです」と切り出した。

続けたのはこの言葉。「これから日本サッカーの発展のためにも、Jリーグをもっと盛り上げていかなければいけないと思うので、皆さんのお住まいの地域にJリーグのチームがあると思うので、選手たちはこの勝利のために、ワンプレーのために努力しているので、是非応援してもらえたらと思います」。約8000キロ離れた日本で画面越しに応援を続けてきたファンにJリーグ観戦を呼び掛けた。

長引く新型コロナウイルス禍などで観客数が減り、盛り上げる必要があるのはJリーグだけではない。W杯期間中の11月26日に行われたWEリーグの1試合平均の観客数は1202人、12月3、4日の試合は1737人。2季目を迎えたWEリーグはさらに厳しい状況にある。

来年は7月から8月にかけて、オーストラリアとニュージーランドで「なでしこジャパン」が女子W杯を戦う。今回のW杯カタール大会の直前に強豪のイングランド、スペインと国際親善試合を戦ったが、あまり話題にならなかった。

今回の「森保ジャパン」の盛り上がりを生かすのであれば、早い方がいい。異例のW杯11~12月開催の余波で、Jリーグは長いシーズンオフに入っているが、開幕まで待っていては遅い気がする。オフに何かできることはないだろうか。シーズン真っただ中のWEリーグへのテコ入れをどうするのか。日本サッカー協会の手腕が問われる。

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