朝晴れエッセー

葱・12月6日

艶やかで色鮮やかな夏野菜ももちろんおいしいが、霜のおりた畑でじっと寒さに耐えて養分を蓄えた冬の野菜はまた格別に思う。

中でも葱(ねぎ)。包丁を入れれば独特の強い香りに透き通った甘いぬめり。肉と炊いても堂々のメインは葱のほうである。

葱は幼い頃の冬の記憶を呼び起こす。実家は葉葱を生産していた。畑でひいてきたばかりの大量の葱は納屋に運び込まれ、祖父母と両親が出荷の準備をする。

長い緑の葉が折れないように気をつけながら、傷んだ外葉を根の方まで剝がすとみずみずしい真っ白な部分が現れる。数本ずつ、わらでくくって束にし、その後井戸端で根についた土を洗い流す。葱のにおいの充満する庭で遊んでいた日々。

後年母から聞いたところによると、祖父は新年を迎えると、早朝に独り葱畑で祈りをささげていたという。

近くの氏神様の氏子総代を長年務めた祖父は、折った半紙にはさみを入れ紙垂(しで)を作り、細い竹の枝につけて御幣(ごへい)のようにして畑に立て、自分の鍬(くわ)も並べて立てて静かに手を合わせていたのだという。明け始めた東の空に向かい白い息を吐きながら深く頭を垂れる祖父の姿。美しい光景だったと母は言う。

ことさら私たちにそんな話をすることもなく祖父は逝ってしまった。受け継いだ両親と兄夫婦が作ってくれる葱を、今週末にももらいに帰ろう。


涌田緑(56) 奈良県大和高田市

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