120分超の激闘の末「新しい景色」は夢と消えた…本紙記者が耳にしたサポーターの思い

夢の幕切れ。PK戦での敗退後、スタンドのファンに挨拶する日本代表=5日、アルジャヌーブ競技場(村本聡撮影)
夢の幕切れ。PK戦での敗退後、スタンドのファンに挨拶する日本代表=5日、アルジャヌーブ競技場(村本聡撮影)

【アルワクラ=小松大騎】またしてもあと一歩届かなかった。日本サッカー界の歴史を塗り替える勝利までわずかに届かなかった。サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会の決勝トーナメント1回戦で、日本代表は5日(日本時間6日)、前回準優勝のクロアチアと対戦。1-1のまま計120分の激闘でも決着がつかず、PK戦の末に散った。4度目となった悲願のベスト8への挑戦で「新しい景色」を見ることはかなわなかったが、死力を尽くし世界の強豪国と渡り合ったサムライブルーに、会場からは温かい拍手と歓声が送られた。

茫然、涙の選手たち・・・PK失敗の南野にベテランは声をかけた

クロアチアの4人目のPKが決まり、激闘に終止符が打たれると、南野拓実はピッチにうずくまり、しばらく動けなかった。長友佑都や吉田麻也が、背番号10に駆け寄り、肩をたたいて声をかける。

堂安律は茫然(ぼうぜん)とした表情で空を見上げ、浅野拓磨は人目をはばからず涙を流した。クロアチアをあと一歩まで追い詰めながら、またしてもはね返されたベスト8の厚い壁。それでも、スタンドからは代表選手26人の激闘をたたえる温かい拍手と声援が送られた。

4万2523人で埋まった首都ドーハ近郊の都市アルワクラのアルジャヌーブ競技場。スタンドは約6割が日本代表カラーの青に染まり、試合前から勝利を願うサポーターによる「ニッポン」コールで沸いた。この日に合わせて現地入りしたサポーターも多いが、原動力は「新しい景色をみんなで見たい」の一点だ。

一方、サポーターの脳裏にあるのは、前回のロシア大会ベルギー戦で電光石火のカウンターを受け、わずか14秒の間に失点して敗れた「ロストフの悲劇」。長友と同じく髪を赤色に染めた東京都杉並区の須藤優さん(32)は「4年前の悔しい思いがあったからこそ、今日があるんだと思いたい。歴史的な日を祝って『ブラボー!』と叫びたい」と興奮気味に語る。

試合は前半、一進一退の攻防が続いた。前半43分、セットプレーからこぼれ球を前田大然が左足で押し込み、W杯初ゴールが貴重な先制点に。笑顔で抱き合う前田らイレブンに割れんばかりの拍手が送られ、前半は1点をリードして折り返す。

後半に入り、伊東純也の右サイドを中心に攻め込むが、後半10分に相手のヘディングがゴールに吸い込まれ同点に。スタンドからは、ため息が漏れた。クロアチアの司令塔、モドリッチの強烈なミドルシュートなど危うい場面が続いたが、GK権田修一を中心とした懸命の守りで耐えしのぎ、延長戦に突入した。

「日本はアジアの代表」 低評価を覆した戦い

延長戦は、三笘薫のミドルシュートなど惜しいシーンもあり、スタンドからは一層大きな歓声が送られたが、両チームとも疲労の色は隠せず、互いに決めきれない。120分を戦いきり、PK戦にもつれ込んだが、日本は1人目の南野をはじめ計3人が相手GKに阻まれ、敗戦を喫した。それでもスタンドからは「ありがとう」「お疲れさま」と選手をねぎらう声が相次いだ。

「逆境でも最後まで決してあきらめない姿に感動しました」。東京都大田区から来た寺門朋哉さん(25)はこう振り返る。涙する南野の姿にもらい泣きしたといい、「エースとして期待されながら結果が出ずに悔しかったと思うが、僕は勇気をもらえたし、前を向いてほしい」と語る。

大阪市此花区の料理人、木村駿之介さん(26)は「日本代表の躍進のおかげで多くの外国人が『アジアの代表』として日本を応援してくれて感動した。この悔しさを4年後にぶつけてほしい」。大阪市中央区の会社員、坂口聖さん(40)も「最高のW杯だった。胸を張って帰国してほしい」とほほえんだ。

大会前、日本国民は決して高い関心を寄せていたとはいえない。それでも1次リーグでドイツ、スペインを相次いで破る2度の大金星をあげ、熱狂の渦に巻き込んだサムライブルー。けがから復帰した浅野拓磨がドイツ戦で決めた値千金の逆転ゴールのほか、スペイン戦で同点弾を放った堂安律の「俺のコース」発言、スペイン戦での逆転ゴールを演出した「三笘の1ミリ」など、世界のサッカーファンの記憶に刻まれた言葉や場面も少なくない。

日本のユニホームを着て応援したフィリピン出身のモラレス・ルシャルさん(27)は「勝負は時の運。日本はアジア勢に勇気を与えたし、とても感動した」と笑顔。東京都品川区の会社員、菊池華奈子さん(30)も「まずは『お疲れさまでした』と伝えたい。新しい景色まで本当にあと一歩。サポーターとしても、カタールで負けた景色を焼き付けた。若い選手たちも多いので、この悔しさを4年後に晴らしてほしい」とたたえた。

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