主張

香港司法への介入 普遍的価値否定の象徴だ

黎智英氏=2020年7月、香港(AP=共同)
黎智英氏=2020年7月、香港(AP=共同)

最高裁の判断を政治が覆す。民主主義国が普遍的価値として掲げる「法の支配」に真っ向から反するシステムが中国には現実にある。改めてその異様さを実感する。香港にはすでに、独立した司法はない。

香港国家安全維持法(国安法)違反の罪で起訴された香港紙「蘋果日報(アップルデイリー)」創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏の裁判で、英国人弁護士の参加を認めた香港最高裁の判断に、香港トップの李家超行政長官は国安法の解釈権をもつ中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会に外国人弁護士参加の可否に関する法解釈を要請すると述べた。最高裁判断は覆され、英国人弁護士は排除される見通しだ。

香港は中国返還以降も英国統治時代の法体系を維持し、英国で資格を持つ弁護士も活動できる。黎氏はこの制度を利用し、ロンドン在住の著名な弁護士を選定していた。だが英弁護士の不参加が決まれば、裁判の透明性という点からも大きな後退である。

黎氏側の申し出に対し、香港の当局は「国家機密が暴露される可能性がある国安法の裁判に、外国人の弁護士が参加することを許可すべきではない」と異議を申し立てていた。

だが香港高裁は、外国人弁護士の参加には「公共の利益がある」と判断してこれを退け、最高裁も高裁判断を支持して弁護士の参加を認めていた。

全人代は中国の国会にあたる最高権力機関で行政権、司法権に優越する。中国は事実上の一党独裁国家であり、全人代はいわば中国共産党そのものだ。党は法の上位にあり、為政者も法に従い、権力は法の枠内で行使される「法の支配」を否定する体制といえる。

習近平国家主席は10月の中国共産党大会の政治報告で「法治中国の建設推進」を掲げた。三権分立による権力の相互チェックもなく、被告に公正な裁判を受ける権利も保障しない中国における「法治」とは、党による権力行使の道具でしかない。

中国と普遍的価値を共有することはできない。香港司法のわずかな裁量も踏みにじった今回の決定への懸念を、国際社会は共有しなければならない。同時に、黎氏の裁判に国際社会が重大な関心を寄せていることを中国に知らしめる必要がある。

会員限定記事会員サービス詳細