日米共同統合演習「キーン・ソード23」ルポ㊦

南西諸島防衛の拠点・奄美 対露で実績の「ハイマース」を展開

報道陣や各国軍人に公開された米陸軍の高機動ロケット砲システム「ハイマース」=鹿児島県瀬戸内町の陸上自衛隊瀬戸内分屯地(いずれも鴨川一也撮影)
報道陣や各国軍人に公開された米陸軍の高機動ロケット砲システム「ハイマース」=鹿児島県瀬戸内町の陸上自衛隊瀬戸内分屯地(いずれも鴨川一也撮影)

鹿児島県と沖縄県のちょうど真ん中の東シナ海に位置する鹿児島・奄美大島。南北を結ぶ幹線道路は約80キロで、面積は東京23区や琵琶湖よりも大きい。美しい海に囲まれ、豊かな生態系を持つ世界自然遺産の島である。

米陸軍の高機動ロケット砲システム「ハイマース」
米陸軍の高機動ロケット砲システム「ハイマース」

そんな奄美大島は中国が海洋進出を強めるなか、「地政学的に極めて重要」(吉田圭秀陸上幕僚長)になってきた。11月10日から19日まで実施された自衛隊と米軍の共同統合演習「キーン・ソード23」でも、南西諸島防衛の要として主要な演習地域の1つに選ばれた。

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撮影禁止の部屋で行われていることとは

「スマートフォン、カメラなど撮影機能がついている機器の部屋への持ち込みは禁止です!」

16日、奄美大島北部にある陸上自衛隊奄美駐屯地(鹿児島県奄美市)に設けられた日米調整所の取材の際、記者団を案内する防衛省統合幕僚監部の担当者から、こう指示された。ここは最前線に展開する日米の両部隊から情報を吸い上げ、日米間で戦術レベルの調整を行う「頭脳」となる。

小学校の教室ほどの広さの部屋の中心に大きな地図とモニターがあり、黒い布で覆われている。それらを「コ」の字で囲むように机が配置され、机上には「日米調整所長」「作戦」「兵站(へいたん)」「情報」「通信」「人事」など担当ごとにプレートが置かれていた。自衛隊と米海兵隊の担当者が最大で30人ほど詰めて〝作戦〟を練るという。

陸自幹部は「ここには普段地図を掛けているが、保全上、外している。本来は地図を見ながら作戦を想定し、モニターに作戦図を重ねて、各部隊と情報を共有しながら作戦を実行する場所となっている」と説明した。記者団が共同演習の特徴について尋ねると、「離島侵攻に対する防衛だ」と言い切った。

今回、日米調整所は那覇市、与那国島(沖縄県与那国町)にも設けられており、陸自の健軍駐屯地(熊本市)と連携しているという。健軍では米海兵隊、米陸軍も加わり、それぞれの陸・海・空と戦略レベルの調整を行っていた。

機密を扱う場所に〝よそ者〟が入ってきたことへの警戒感からか、日米調整所内は終始、張り詰めた空気だった。

日米区別なく一体訓練

負傷者の救護訓練を行う日米の衛生班
負傷者の救護訓練を行う日米の衛生班

「ここでできる処置が終わったら、病室に送りまーす!」「左大腿(だいたい)部骨折の疑いがあります!」

日米調整所が設置されていた建物の外には、日米の衛生班が共同運営する医療拠点があり、騒然かつ秩序立って動いていた。

陸自のトラックから負傷した米海兵隊員3人、その処置が終わると自衛官3人が同じように担架に乗せられ、テントに運ばれてきた。身体に傷を模したテープなどが貼ってある。

日米の医師や看護師が負傷者の状態を判断し、大声で叫んでいた。英語と日本語が入り交じり、それぞれの言語でホワイトボードに負傷者の状態を書き留めていく。1組3人が基本となり、手早く応急処置を施していく。

訓練を実施している間、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)から米海兵隊が運用するMV22オスプレイが飛来した。負傷者を沖縄本島の医療施設に運ぶ訓練だという。負傷者、救助者ともに日米の区別はなく、一体化した訓練だった。

地元記者は見慣れた「ハイマース」

奄美駐屯地に先立ち、島内にある瀬戸内分屯地(鹿児島県瀬戸内町)にも足を運んだ。

奄美市中心部の名瀬市街地から南北を縦断する国道58号を1時間ほど南下し、マングローブ原生林など雄大な自然を抜けた高台に分屯地がある。

ここでは米陸軍部隊が高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)を展開していた。サッカーコート1面分ぐらいの高台に砂漠迷彩の1人用テントが19張設置されており、その脇に2基のハイマースがあった。

トラックに搭載されるため移動が簡単な「ハイマース」
トラックに搭載されるため移動が簡単な「ハイマース」

米国はロシアのウクライナ侵略を受け、ウクライナに十数基のハイマースを提供している。ウクライナ軍はハイマースでロシア軍の橋や弾薬庫などを精密誘導でピンポイント攻撃しており、反転攻勢に寄与する「ゲームチェンジャー」との指摘もある。視察したオーストラリアとカナダ、英国、韓国、北大西洋条約機構(NATO)の中佐・大佐クラスの武官らの関心も非常に高かった。

現場ではミサイルの射撃態勢や装塡(そうてん)などのデモを行った。部隊を指揮する米陸軍大尉は、ハイマースの特徴について「スピーディーな機動展開と、撃った後、すぐに移動できる点だ」と説明した。フィリピンの武官から次の射撃に移るまでの時間を問われ、大尉は「数分」と答えていた。

ハイマースは、最高時速85キロで走れる6輪駆動装甲トラックにミサイルシステムを搭載している。短時間で連続射撃できるほか、射撃後、すぐに移動できるため、簡単に位置を捕捉されない強みがある。武官たちは実際に試乗し、その実力を品定めしていた。

「ハイマースは何度も見ているので、あまり新鮮ではないんです。『またか』って感じです」

初めて見たハイマースに記者が何枚も写真を撮っていると、奄美の地元紙記者が話してくれた。日常的に「ゲームチェンジャー」に接する、美しい島が置かれた厳しい現実を垣間見た瞬間だった。(千田恒弥)

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