核シェルター普及率0.02% 北ミサイル乱発も日本で浸透しない4つの壁

NPO法人日本核シェルター協会のモデルハウス
NPO法人日本核シェルター協会のモデルハウス

ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル発射、中国と台湾の緊張関係など、日本を取り巻く国際情勢が混沌(こんとん)とするなか、核攻撃や放射性物質の汚染から身を守る核シェルターへの関心が高まりつつある。岸田文雄首相も核シェルターの整備について「現実的に対応を講じていく必要がある」と言及した。販売業者への問い合わせも増えているというが、現実的には核シェルターの普及は進まず、関係者から「まだ国民の危機意識は薄い」と指摘する声もあがる。なぜ意識は高まらないのだろうか。

核シェルター手前の気密室には水や食料などのほか、簡易トイレも備えられている
核シェルター手前の気密室には水や食料などのほか、簡易トイレも備えられている

2週間の滞在を想定

まずは、核シェルターとはどのようなものか。

神戸市須磨区の山林に建つNPO法人「日本核シェルター協会」のモデルハウス。地下にスイス仕様の核シェルターが設置されている。協会理事長の織部信子さん(78)が案内してくれた。

外見は普通の木造建物と変わらない。だが地下に向かう階段と壁は重厚なコンクリート造り。厚さ約20センチの二重の扉があり、核爆弾の爆風や放射線から身を守るという。階段下の扉とシェルターとの間の気密室と呼ばれる空間には大量の水や缶詰などの食料、トイレットペーパーや常備薬といった生活必需品などが備蓄され、簡易トイレも置かれていた。

奥に進むと、約50センチの壁に囲われた広さ8畳ほどのシェルターが。三段ベッド2基が配置され6人程度が避難できるという。汚染された外気を浄化するスイス製の空気清浄機は平時は電動だが手動でも使える。室内の空気は気密室に通じる排気口から外部に放出する仕組みだ。外に出られる非常口と通路も完備しているという。

同協会によると、核爆発から2週間ほどで外部の放射性物質は千分の1程度まで減り、人体への影響が少なくなるとされる。シェルターはその2週間ほどを過ごす施設として想定されている。

「シェルター」の核シェルターに設置したイスラエル製の空気清浄機について説明する西本誠一郎社長=大阪府羽曳野市
「シェルター」の核シェルターに設置したイスラエル製の空気清浄機について説明する西本誠一郎社長=大阪府羽曳野市

問い合わせは相次ぐ

ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の弾道ミサイル発射などが影響しているようだ。核シェルターの販売や施工を行う業者に尋ねると、問い合わせ自体は増えているようだ。

60年前から核シェルターを輸入販売する「シェルター」(大阪府羽曳野市)には最近、月50件程度の問い合わせが寄せられているという。社長の西本誠一郎さん(85)は「女性からが7割ほど。家族や孫を守りたいという気持ちが伝わってくる」と話す。

自宅地下の核シェルターには鉄製の二重扉に加え、分厚いコンクリート壁に放射線を防ぐとされる鉛板もはめ込んでいる。スイス製やドイツ製、イスラエル製の空気清浄機が備えつけられ、全国から見学や問い合わせがあるという。

また、販売代理店を担う「バリアホーム」(堺市)にも同程度の問い合わせがある。「ニュースの頻度に比例して増える傾向にある」と社長の堀保さん(45)。大阪府大阪狭山市の同社ショールームで展示する米国製核シェルターの見学は予約制だが、突然来場する人も増えている。堀さんは「急速に関心が高まっているのを感じる」と話す。

バリアホームで取り扱う米国製核シェルターの大枠。堀保社長は「突然見学に来る人が増えた」と話す=大阪府大阪狭山市
バリアホームで取り扱う米国製核シェルターの大枠。堀保社長は「突然見学に来る人が増えた」と話す=大阪府大阪狭山市

設置費用は高額

だが、関心の高まりの一方で、日本の核シェルター普及率は極めて低い。同協会によると、2002(平成14)年の調査で、人口あたりのシェルター普及率は、スイスとイスラエルが100%、米国82%、英国67%で、日本はわずか0・02%だった。

織部さんは「20年前の調査だが、日本の普及率は今も大きく変わらない」と説明。スイスやイスラエルは公共・家庭用ともに核シェルター設置が義務付けられているという。

東京や大阪、神戸などでは国民保護法に基づき地下鉄の駅舎や地下街などが緊急一時避難施設に指定されているが、収容人員は限定的で放射線も防ぎきれない。10月17日の衆院予算委員会で岸田首相は核シェルターについて「諸外国の調査を行い、必要な機能や課題の検討を進めている」と述べたが、財源や多くの国民を収容するスペースの確保など課題は山積する。

普及が進まない理由にあげられるのが設置費用が高い点だ。「シェルター」ではエアコンのように壁に設置するイスラエル製空気清浄機を約280万円で販売。「バリアホーム」は埋設工事などの費用込みで1800万円を超える。織部さんのシェルターも2500万円かかったという。

一般の人にとって容易に手を出せない金額だが、堀さんは「住宅の耐震工事のように国が補助金を出せば需要も高まり価格も下がるだろう」とみる。

しかし、ハードルはこのほかにもある。新設・増設にかかわらず一定の広さの土地が必要なうえ、建築基準法のクリア、固定資産税が高くなるといった点を指摘する声もある。

一方、西本さんは日本人の核アレルギーをあげ、「日本は戦争で唯一の被爆国。私自身60年間、核シェルターの必要性を訴え続けてきたが、核というだけで白い目で見られてきた」と振り返る。転機は2017(平成29)年の北朝鮮の核実験。「徐々にだが現実に迫る危機に脅威を感じる人が増えた」と話す。

織部さんは日本に核シェルターの設置や規格といった基準がない点を指摘。「核攻撃の脅威への備えのためにも、日本政府は早急に核シェルターの整備への道筋をつけるべきだ」と話していた。(勝田康三)

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