プロ野球パ・リーグ元審判部長の二出川延明は、意見を曲げない堅物として知られた。
▼その人が球審を務めた試合に逸話がある。本塁上のクロスプレーでアウトを宣告したところ、攻撃側が「ノータッチだ」と食い下がった。猛抗議をはねつけた翌日、スポーツ紙には「これでもアウトか」の見出しとともに、タッチをかいくぐる走者の写真が載った。二出川は言ったという。「これは写真が間違っています」
▼かつてサッカーのワールドカップ(W杯)で世を騒がせた「神の手」しかり。神様は人の目の届かぬところでいたずらをし、伝説という置き土産を残してきた。それゆえ往時茫々の感が強い。W杯カタール大会で日本に金星をもたらしたのは、最新技術による噓のない写真だった。三笘薫選手の伸ばした足がゴールライン上のボールを蹴る瞬間の、あの写真である。