新聞に喝!

空疎な理想論で誤魔化す朝日 イスラム思想研究者・麗澤大客員教授 飯山陽

イスラム研究者の飯山陽氏(寺河内美奈撮影)
イスラム研究者の飯山陽氏(寺河内美奈撮影)

朝日新聞は11月4日付の社説「ロシアの戦争 市民の命『人質』許さぬ」で、ロシアがウクライナからの食料輸出に関する国際合意の停止を発表したことを批判した。翌5日付の社説「南北の応酬 力の対抗に歯止めを」では、北朝鮮と韓国が「お互いが挑発に乗って強硬な対抗措置で返せば、本格的な軍事衝突を招きかねない」と批判した。

両者は、問題解決の方法を「外交」「対話」とし、「力」を否定している点で共通している。4日付の社説では当該合意について「交戦中のウクライナとロシアが互いに交渉を拒むなか、仲介者(国連とトルコ)の努力と工夫で膠着(こうちゃく)を打開した貴重な事例であり、将来の停戦交渉に向けたモデルにもなり得る」と称賛し、「脅しに屈せず、粘り強く働きかけて、譲歩を引き出す。たとえ戦争中であっても外交が力を発揮する、その重要な前例としたい」と述べた。朝日の主張は、仲介者がロシアの脅しに屈せず粘り強く働きかける努力と工夫をすれば停戦可能というものだ。今も停戦できないでいるのは外部の努力と工夫が足りないからだということになる。しかし停戦できないのはロシアが撤退しないからに他ならない。ウクライナ側は「力」で応酬しなければたちまち征服されてしまう。それを否定するということはすなわち、さっさと降伏し征服されればよし、と言っているに等しい。

5日付の社説でも、「力と力」を競うことを「愚かなふるまい」と否定し、「米韓と日本は、北朝鮮の責任を厳しく問うと同時に、対話に導き出す手立ても尽くす必要がある」と述べている。こちらも要するに、北朝鮮を対話に導き出せていない米韓、それに日本の努力が足りないということになっている。

外交と対話だけを紛争解決の手段とし、武力をあくまで否定する「平和主義」は正しく理想的であるように見えて、実は武力行使した側の罪から目を逸(そ)らし、責任の所在を曖昧にする役割を果たしている。加えて、武力行使された側が応戦したからこそ状況が悪化したかのように印象付け、武力行使された側と第三者が武力行使した側を追い詰めたからいけないのだと錯覚させる効果もある。

11月24日、ウクライナ南部ヘルソンで、ロシアの攻撃による負傷者を運ぶ住民や救急隊員(AP)
11月24日、ウクライナ南部ヘルソンで、ロシアの攻撃による負傷者を運ぶ住民や救急隊員(AP)

非難されるべきはウクライナに軍事侵攻したロシアであり、ミサイルを撃ち込んでいる北朝鮮である。朝日の社説は、この現実を空疎な理想論で誤魔化(ごまか)す詭弁(きべん)だ。かような詭弁によって、国際法を順守する自由民主主義国家という日本の基本姿勢を揺るがされてはならない。

【プロフィル】飯山陽

いいやま・あかり 昭和51年、東京都生まれ。イスラム思想研究者。上智大文学部卒、東大大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。麗澤大学客員教授。著書に『中東問題再考』など。

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