日曜に書く

論説委員・井伊重之 電気料金値上げに2つの影

東京電力の小早川智明社長(左)
東京電力の小早川智明社長(左)

大手電力の料金値上げ申請が相次いでいる。世界的なエネルギー価格の高騰を受け、燃料費上昇によるコスト増を料金に転嫁する動きである。来春の実施に向けて大手電力10社の中で6社が申請、もしくは準備中だ。5割近い値上げを申請する電力もあり、政府がどのような査定をするかが問われている。

カルテルの行方も影響

とくに政府は物価高対策として、来年から電気・ガス代を補助して家計や企業の負担軽減を目指しており、値上げ申請は厳しく査定する構えだ。こうした中で各社が懸念しているのが電力カルテル問題の行方だ。世論の反発は必至であり、料金値上げにも影響を与えそうだ。

競争を通じて料金とサービスの多様化を促す電力自由化に伴い、電気・ガスのセット割引などの新たな料金メニューが相次いで登場した。こうしたメニューは自由料金と呼ばれ、値上げも比較的自由に実施できる。

電力各社が今回、値上げを申請したのは「規制料金」だ。自由化以前からの契約は政府の料金認可の対象で、各社の発電コストから料金を算定する。ロシアのウクライナ侵略で燃料価格が高騰し、発電コストが販売価格を上回る逆ざや状態にある。こうしたコスト上昇分を料金に反映させる狙いがある。

各社の値上げ申請を受け付けた経済産業省幹部は「これほどの値上げ幅になるとは想定しなかった」と驚く。複数の原発が稼働している関西電力と九州電力は申請を見送ったが、石炭火力の比率が高い北陸電力は標準的な家庭向け料金で45%もの値上げを申請した。

同社の松田光司社長は「経営効率化だけではコスト増を賄いきれない。苦渋の決断だ」と大幅値上げに利用者の理解を求めた。火力発電がほとんどを占める沖縄電力も4割近い値上げを申請したほか、東北電力や中国電力、四国電力も3割前後の値上げを届け出た。

一方、東京電力の小早川智明社長は9月、「規制料金の値上げは考えていない」と表明した。だが、11月になって一転して値上げする方針を示した。同社も燃料高によって赤字が拡大しており、経産省の思惑もあって方針転換を迫られたようだ。月内にも正式に申請する。

経産相は「厳格に審査」

すでに電気料金は昨年同期に比べ2~3割値上がりしており、家計や企業の負担は重くなっている。このため、政府は来月から電気・ガス代の補助を始め、家庭用電力で2割ほどの料金引き下げを目指している。ただ、今回の値上げ申請は政府の補助を大きく上回っている。

それだけに審査にあたる西村康稔経産相は「今回の値上げは燃料価格の高騰が主な要因なので、とくに燃料調達の費用見込みなどを厳格に審査する」と強調している。燃料費だけでなく、人件費を含めた経営効率化の取り組みや遊休資産の売却なども精査する方針だ。

こうした中で公正取引委員会は中部電力と中国電力、九州電力に独禁法違反(不当な取引制限)があったとして1千億円超の課徴金納付を含む処分案を通知した。これは関西電力が主導してカルテルを結び、価格を不当につり上げた疑いだ。ただ、関電は自主申告(リーニエンシー)制度にもとづき、課徴金の納付は免れる模様だ。

業界内には「自らカルテルを呼びかけておきながら、自分だけ課徴金を免れるのか」との批判は根強い。

しかし、各社が最も関心を寄せているのは、このカルテル問題が料金値上げにどのような影響を与えるかである。大手電力幹部は「電気・ガス代補助で多額の予算が計上される中でカルテルが発覚した。値上げ申請に逆風となるのは間違いない」と身構える。

河野氏の判断に注目も

各社が神経を尖(とが)らせるのはカルテルだけではない。河野太郎消費者担当相の動向にも気をもんでいる。脱原発が信条の河野氏は、これまでも電力業界や経産省に対して厳しい態度を示してきたからだ。今回の値上げ申請には消費者庁も審査に関与することになる。

とくに今回の申請では、なるべく発電コストを引き下げるため、各社とも原発再稼働を一定の条件下で算定している。経産省関係者は「原発再稼働を認めなければ発電コストは一段と上昇し、料金もさらに値上がりする。コストを引き下げるためには原発再稼働が欠かせない」とみており、河野氏がどう判断するかも注目されそうだ。(いい しげゆき)

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