地方の足は「定額乗り放題」 移住の24歳社長が挑む交通の未来

住民にmobiの使い方や特徴を説明する「暮らしの交通」の田島颯社長(同社提供)
住民にmobiの使い方や特徴を説明する「暮らしの交通」の田島颯社長(同社提供)

乗用車の利用増や少子高齢化に伴う人口減などにより、地方で路線バスやローカル線の運行廃止が進むなか、車を持たない住民の生活の足として、定額乗り放題という新たなサービスが注目を集めている。10月からサービスを開始した香川県三豊市では移住してきた24歳の慶大卒の若者が運営会社の代表に就任、「新しい交通の選択肢を提供したい」と意気込む。

慶応SFC出身の若社長

三豊市は瀬戸内海に面した人口約6万人の閑静なまちだ。最近は「父母ケ浜(ちちぶがはま)」が交流サイト(SNS)上で話題となり、国内外から約50万人の観光客が訪れるようになったことで知られる。

香川県三豊市で運行している「瀬戸内mobi」。8人乗りの車両を使用している
香川県三豊市で運行している「瀬戸内mobi」。8人乗りの車両を使用している

その三豊市で定額乗り放題サービスを提供するのは「暮らしの交通」。市は今年2月に3日間の無料実証実験を行ったうえで、9月に地元タクシー事業者3社を含む12社の共同で設立、10月からサービス提供を始めたばかり。

この新しい会社の社長に9月まで慶応大総合政策学部(湘南藤沢キャンパス=SFC)の学生だった田島颯(はやて)さんが就任した。東京都江戸川区出身で、市民らの地域おこしへの熱意の強さに心を動かされ、昨年9月に移住。もともと地方での教育に関心を持っていたこともあり、三豊市では学校横断型の地域部活動「みとよ探究部」を運営している。

田島さんの悩みが交通の壁。同市でも学校の統廃合や学校を横断する形での地域部活への移行が進み、親の送迎がないと、子供たちの移動が制限され、選択肢へアクセスすらできない状況が続いていたという。

そんななか、知人から打診された「暮らしの交通」への社長就任。驚きと不安を持って受け止めた田島さんだったが、交通の壁を取り払うのにつながるのならと社長就任を決意した。

田島さんは「運行だけなら(バスやタクシーの)事業者にお任せすればいい。将来的に、レンタカーやカーシェアリング、コミュニティバスなど全ての移動をどうやれば最適化できるのかといった提案まで行えるのが僕らの存在価値だ」と強調する。

AIが最適ルート選択 地域で育てる交通網

三豊市などが取り入れた定額乗り放題移動サービス「mobi」は通信会社のKDDI(東京)と旅行・バス事業者のWILLER(大阪)による合弁会社「Community Mobility」の事業だ。定額30日間5千~6千円で、予約により運行し、半径2キロ程度のエリアに200前後の乗降所を設置する。徒歩や自転車、コミュニティバスなどの代替または補完として、車を持たない高齢者のほか、習いごとや塾で送り迎えが必要な子供らのニーズを想定。三豊市や隣接する琴平町だけでなく東京や大阪といった都心部も含めた国内8エリアで運行している。

同社中部・西日本エリア統括シニアマネジャーの坂本亮氏は「AI(人工知能)が相乗りの最適ルートを選択する。地域でシェアする交通、みなさまで育てていく交通と考えてほしい」と期待を込める。

mobiの運転席横に設置されているタブレット。予約が入るとAIが選択したルートが表示され、それに従って運行する(暮らしの交通提供)
mobiの運転席横に設置されているタブレット。予約が入るとAIが選択したルートが表示され、それに従って運行する(暮らしの交通提供)

一方で、AIの最適化のためにも利用増は急務。無料キャンペーンなどによる認知度向上が必要となってくる。三豊市ではサービス利用可能な一部の地域では独自に学割(高校生・高専生1人3千円)を設定。琴平町でも金刀比羅(ことひら)宮のおひざ元の観光地で、観光需要を取り込むため、会員以外を対象に1日千円で乗り放題プランを設けた。

経済学者の戸崎肇・桜美林大教授(交通政策)はAIがルートを最適化し最低限の台数で運行することによる運転手の過重労働のリスクや採算面から地方での事業が継続されず撤退するリスクなどを指摘する。

「それぞれの地域の実情に合うよう改善できれば成功の可能性がないとはいえない」とする一方で、「地域交通を通院や通学も含んだ社会福祉の基盤としてとらえ直し、自治体は住民も交えて在り方を共有することが必要だ。交通事業者は需要創造や根本的な事業改善の努力を行い、新規投資の必要性を説明して理解を得ることが求められる」としている。(和田基宏)

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