なぜプリウスは“大変身”したのか トヨタが狙う世界市場での逆転策

発表されたばかりの新型プリウス(画像はPHVモデル)。ワンモーションフォルムと呼ばれるノーズからリアエンドまで滑らかに続くシルエットは継承しながら、より低いウインドウエリアや鋭いノーズを備え、格段にスポーティーさを高めている
発表されたばかりの新型プリウス(画像はPHVモデル)。ワンモーションフォルムと呼ばれるノーズからリアエンドまで滑らかに続くシルエットは継承しながら、より低いウインドウエリアや鋭いノーズを備え、格段にスポーティーさを高めている

トヨタが新型プリウスを発表した。まだ発売は先のことであり、車両の詳細な仕様やスペックは発表になっていないものの、その変貌ぶりが話題となっている。特徴としてはスタイリングからも走りの性能を重視している点だろう。

しかしながら、現行のプリウスも走りに関しては大幅な進化を果たしたモデルであった。3代目の30プリウスまではとにかく燃費性能を追求したモデルであり、乗り心地や操縦安定性といった走りの部分は二の次といった仕立てであり、そこに物足りなさを感じるドライバーも少なくなかった。

そこで4代目となる現行の50プリウスでは、TNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャの略=国際競争力を持った設計基準)によって開発されたプラットフォームを採用することで、乗り心地と走行性能を向上させたのである。

もちろん歴代最高の燃費性能に仕上げてきたことも驚異的なことではあったが、トータル性能で評価されることでプリウスの存在価値を高めたのだ。

そこまでの方向性と目標はよかったが、スタイリングデザインが奇をてらい過ぎていたことが、結果的に販売の足を引っ張った。新しさをイメージさせるためにこれまでの歴代プリウスでもさまざまな仕掛けが施されていたが、4代目ではスタイリングが奇抜すぎたのだ。

今度の5代目は正常進化版ではあるのだが、新型のデザインが4代目で実現されていたとしても、ヒットしたかは分からない。7年も経過しているだけに、現在と当時ではクルマに対する評価や印象が大分変わってきている。

そういった意味では、今度のプリウスは今だから通用する斬新なデザインを与えられたとも言える。

欧州でのハイブリッド不要論を跳ね返せるか

3代目までのプリウスは、ハイブリッドの代名詞的存在とも言えるクルマであったことは確かだ。しかし今やトヨタの乗用車のほとんどにハイブリッドが用意されており、プリウスだけが特別なクルマではない。

むしろSUV人気、ミニバン需要があるなか、燃費性能以外に魅力が乏しいクルマでは訴求力に乏しくなる。プリウスの存在意義を見出せなくなってきたのは、乗用車全体の燃費性能が向上したことも影響している。そういった意味では一定の役割は果たした感がある。

欧州市場ではEVへのシフトが進み、エンジン車不要論が定着しつつある。欧州メーカーにとっては制御が複雑で燃費性能を高めることが難しいハイブリッド車を増やして採算性を確保するよりも、EVへのシフトのほうが分かりやすく、ユーザーに自社の姿勢が理解されやすい。そのためハイブリッド車も販売規制によって、市場から排除されそうな気配(現時点では将来的に導入される規制の対象となっている)だ。

クラウンが国内専用モデルから脱却して世界市場へと進出するのと同様に、プリウスも世界市場で勝負していくという新たな使命を受けたクルマとなった。そのためには、燃費性能以外の魅力を携えたクルマでなければいけない。

トヨタがTHS(トヨタハイブリッドシステムの略=遊星歯車機構を利用したストロングハイブリッド)の基本特許を公開しても、欧州メーカーがその構造を採用しなかったのは、プライドやサプライヤーとの関係への影響もあるが、高速走行時の走行フィールへの懸念も大きな理由だった。

いまだMT車の比率が高い欧州では、運転を楽しむユーザーが多く、クルマに対してダイレクトな反応を求める傾向が強い。CVT(無段変速機)がなかなか受け入れられないのと同様に、THSのシームレスで捉えどころのない加速感は欧州のドライバーにとって魅力的に映らないのである。

そこで開発陣は、プリウスにインパクトのある走行性能を与えることで、新たな存在価値をアピールすることにしたのだ。これがプリウスに与えられた新たな使命だ。それが2Lエンジンの投入とモーター出力のアップ、さらなるシャーシのチューニングによるハイブリッド・スポーツセダンへの転身だった。

ハイブリッドの生き残りを賭けた戦略

発売前のこの時点でここまで公表したのは、トヨタの自信としたたかな戦略が込められている。欧州メーカーの中にはちょっと慌てているところもあるに違いない。今度のプリウスはスタイリッシュで省燃費であるだけでなく、走りの性能も大幅に高めていることで、既存のユーザーに買い控えを起こさせる、そんなタイミングとしても絶妙なのである。

もちろん北米市場のユーザーに対しては、強力な加速性能は魅力的に映るに違いない。大排気量車の豪快な加速感に慣れている米国のドライバーにとって、EVの強力な加速感は人気であるし、それと遜色ない走りをプリウスが見せれば、かなりの人気を集めることは想像に難くない。

すでに公開されている新型プリウスのシャーシ。現行モデルの正常進化であり、見た目にはそれほど変化を感じさせないが、ボディ剛性の向上もあり実際の走りは格段の進化を遂げていると思われる
すでに公開されている新型プリウスのシャーシ。現行モデルの正常進化であり、見た目にはそれほど変化を感じさせないが、ボディ剛性の向上もあり実際の走りは格段の進化を遂げていると思われる

そうやってプリウス人気を盛り上げて既成事実をつくれば、ハイブリッド車に対する今後の販売規制は嫌でも見直しせざるを得ない状況にもっていけるのではないかという、トヨタのハイブリッドの生き残りを賭けた戦略が透けて見えるではないか。

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