朝晴れエッセー

最後のプレゼント・12月3日

秋も終わり初冬に入るこの時期になると思い出すことがある。

私が仕事から帰宅したある日のことだ。「ただいま」と部屋に入るとリビングにはふかふかのラグが敷かれていた。ラグの上を一歩二歩と歩くと、疲れた私の足は、まるで雲の上にいるような錯覚を覚えたほど快適だったことを覚えている。

夫に「これどうしたの?」と尋ねると、ニコッと笑いながら「これから寒くなるから少し早いけどクリスマスプレゼントだよ」と言った。子供が成長してからは、クリスマスプレゼントなど縁遠いものとなっていたのに。うれしさと驚きとが入り交じり複雑な気持ちになった。

そうか…。「来年の冬からは一人の生活になるんだよ。暗く寂しい冬を一人で生きていかないといけないんだよ」と言いたかったのか(今となっては聞くすべもないが)、そのときはそんな夫の優しい気持ちを感じ取り胸が熱くなった。

夫は末期のがんを患っており余命1年と宣告されていた。「ありがとう。今年は暖かい冬が過ごせるね」と笑顔で応えた私。その年は大雪に見舞われた寒い冬だった。しかしラグのおかげで心も体も暖かい冬を過ごすことができた。来年もこんな生活が送れるのではないかと感じるほど平穏な日々を過ごしていたが、夫は次の冬を待つことなく半年後に天国に旅立ってしまった。

あれから5度目の冬がやってくる。さてそろそろラグを出そうかな…。「お父さん、今年はどんな冬になるのかしら?」。遺影の夫はあのときと変わりなくほほえんでいる。


鈴木明美(66) 埼玉県新座市

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