記者発

変わらぬ独りよがりな革命家 経済部・田辺裕晶

京都市東山区で行われた集会で講演する日本赤軍の元最高幹部、重信房子さん=10月16日
京都市東山区で行われた集会で講演する日本赤軍の元最高幹部、重信房子さん=10月16日

もう四半世紀前の話だが、警備が世界一厳重というイスラエルのベングリオン国際空港に到着したときの緊張感はよく覚えている。大学の夏季休暇に、聖書が描くキリスト教やユダヤ教の原風景を見てみたいという物見遊山だったが、出入国審査が特に厳しいと聞いて怖気(おじけ)づいた。世界各地でテロ事件を繰り返した日本赤軍が1972(昭和47)年に起こしたロッド空港(現ベングリオン空港)乱射事件を受け、日本人はマークされるらしい。そんな話だった。

入国審査官は、目鼻立ちの整った美しい女性だった。無言で私の赤いパスポートをちらりと見ると、冷たい声で言った。「ついてきなさい」。

まさかの事態に、背筋を嫌な汗が流れた。怪しい者ではありません。ただの観光なんです。拙い英語力で言い訳を並べても、理解を得られるような相手とは思えない。

入国審査官は取調室のドアを閉めると、一瞬こちらに視線を向け、何か考えたようだった。そしておもむろにブラウスの胸元に手を当てると、一つ、また一つとボタンを外し始めた。私は愕然(がくぜん)とした。

さて、こんな昔話を思い出したのは、日本赤軍の重信房子元最高幹部が20年の刑期を終え出所したからだ。10月16日に京都市内で講演した際はロッド空港乱射事件を振り返り、「新しい気持ちで再出発したい。みんなと一緒に、日本と世界を変えていきたい」と意気込みを語ったという。

就職氷河期世代の私は、全共闘世代の〝ヒロイン〟である重信氏に郷愁を覚えない。血塗られた事件を正当化し今でも革命家を気取る姿に、心が冷え冷えとするだけだ。罪のない同胞が迷惑を被ることなど想像もしないのだろう。

話を戻す。肩をあらわにした入国審査官は恥ずかしそうに言った。「背中に漢字でタトゥーを入れたんだけど、どんな意味か分からないの」。そこには楔(くさび)形文字のような不思議な図柄が彫られていた。

漢字ではないと宣告する勇気はなく、思わず答えた。愛ですね。気取ったわけではない。とっさに「ラブ」という単語しか思い浮かばなかっただけだ。入国審査官は喜んで私を解放してくれたが、頭は真っ白になったまま。おかげで旅行初日の記憶はほとんどない。重信氏にはぜひとも真摯(しんし)に反省していただきたい。

【プロフィル】田辺裕晶

平成13年入社。前橋支局、宇都宮支局、東京本社文化部を経て21年から経済部。現在は財務省・日銀・兜クラブを中心とする財政金融分野の統括キャップ。

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