採用も“ファン作り” トヨタが実施する「採用色を出さない採用」とはいったいどんなものなのか

ソフトウェア人材の採用を強化(公式Webサイト)
ソフトウェア人材の採用を強化(公式Webサイト)

南武線沿線での広告に対しては、ネット上で話題になるなど想定よりも反響が大きく、ポジティブな反応が多かったという。

「他企業からは『トヨタさん思い切ったことをするね』『日本の転職市場を活性化させる方向にもなるので、これはかなりいいね』というような意見をいただきました。ポスター掲示、ネット上での拡散、メディア掲載などが合いまった結果、沿線勤務のターゲット人材の認知につながったことに加え、南武線沿線勤務ではないターゲット人材へもリーチできたと考えています。結果として、応募数は大きく増えました」(小河原さん)

「採用活動もファン作り」

トヨタといえば、会社に対するファンがとても多いことが特徴だが、採用活動でもこういったファンづくりのノウハウは生きているようだ。小河原さんは「実際にファン育成が採用活動に影響していると感じる」と話す。また、「採用活動もファン作り」だと考え、採用色をあえて排除して情報発信をすることで、求職者からトヨタの持つ技術、働き方、社員への興味関心を育成しているという。

トヨタが最近力を入れているソフトウェア領域の人材採用では、広告や情報発信に加えて、21年からは技術者のプラットフォーム「TECH PLAY」内でイベントも実施している。

「イベントは採用情報は一切入れずに、技術を紹介するセミナーとして実施しています。純粋にトヨタが本気でソフトウェア開発に取り組んでいることを知っていただくことで、エンジニアの方々にトヨタのファンになってもらうことを意識しています。イベントに参加してもらって、そこから求人への応募につながればそれに越したことはないですが、より重要なのは長期的に候補者の方と接点を持つことです。一人一人が転職を考えるタイミングは異なるので、イベントを開催した時期に転職を視野に入れている人は少数だと思います。ですから、採用色を全面に打ち出すのではなく、技術を通じてトヨタに興味を持ってもらい、ファンになってもらうことを目標にしています」(千々岩さん)

過去に実施したイベント
過去に実施したイベント

同社はこれまでに10回以上のイベントを実施しており、7000人以上が参加。イベントから選考に進んだ人は約100人以上にのぼり、多くの採用にもつながっているという。

過去に実施したイベント
過去に実施したイベント

イベント以外でも、採用Webサイトで公開している社員インタビューなど、各種コンテンツでも採用色は出さないように意識している。

「『どうしてTOYOTAに転職してきたか』など、キャリアに対する考え方は記載していますが、『一緒に働きましょう』などのメッセージは使用していません。その方の働き方やキャリアに関する考え方、技術に対する取り組みなどを通して、共感してもらえるよう心掛けています。採用活動も“ファン獲得”が重要だと考えています」(千々岩さん)

リクルーティングサイトで公開している社員インタビュー
リクルーティングサイトで公開している社員インタビュー

今後も課題は「中途採用者が働きやすい土壌作り」

千々岩さんは今後の展望について「中途採用者が活躍できる土壌づくり」を挙げた。同社はもともと新卒一辺倒の採用体制で、中途採用者の増加に対して、制度や体制が整いきっていないという。

「働き方は多様化しているからこそ、多様な働き方を認め、一人ひとりのライフスタイルや状況に合わせて採用の間口をもって行くことを意識しています。今後は『トヨタは自動車の会社ではなくモビリティカンパニー』『トヨタにもITエンジニアやソフトウェア人材が活躍できる場がたくさんある』という認知を得るとともに、中途採用者が働きやすい環境作りにも励んでいきます」(千々岩さん)

(ITmedia ビジネスオンライン)

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