トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、「自動車をつくる会社」から「モビリティカンパニー」にモデルチェンジすることを掲げ、車や移動に関わるあらゆるサービスを提供する会社を目指している。その過程で、車を開発するだけではないさまざまな仕事が出現し、それを担う専門人材の獲得が必須になっている。
「トヨタ=自動車の会社」というイメージはやはり根強いため、従来のターゲティング広告や求人広告ではエンジニアの獲得に苦戦していた。そんな中、トヨタは「採用色」を出さない採用活動を意識していると話す。一体どんな取り組みをしているのか。人事部人材育成室採用グループの千々岩真志主任と小河原由梨さんに話を聞いた。
自動車会社→「モビリティカンパニー」へ
トヨタが目指すモビリティカンパニーとは、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供し、多様なニーズに応える企業を指す。「電動化」「自動化」「コネクティッド」(IoT技術で車と社会をつなぎ、さらなる安全と安心を提供すること)、「シェアリング」などの技術革新に積極的に取り組んでいる。
モビリティカンパニーへの変革を目指す過程で、コネクティッドの技術を担うITエンジニアやソフトウェア人材の獲得が必要となった。しかし、トヨタがソフトウェア領域を強化していることや、トヨタでエンジニアの採用を行っていることなどが世間に浸透しておらず、キャリア採用には課題を感じていたという。千々岩さんは、「自動車産業としての認知度はある一方で、ソフトウェアの領域に取り組んでいること、モビリティカンパニーに変革し、自動運転やIoT技術に取り組んでいることに対する認知度はまだまだ低いと感じています」と話す。
マス向け広告とターゲット別広告を使い分け
トヨタでは、採用広告を「マス広告」「ターゲット別広告」の2つに分けて考えているという。マス広告は認知向上を目的に、オウンドメディア「トヨタイムズ」を中心に経営層の情報発信、車づくりに対する会社の方向性の発信を行っている。対してターゲット別広告はより求人に基づいたもので、専門メディアでの広告配信のほか、職種ごとのキャリアイメージや技術的な取り組みを紹介している。
「3月には、マス広告として山手線車内に中づり広告を掲示しました。キャリア採用を行っていることへの認知拡大が目的で、転職者の多い春に合わせて実施。最近は一人一人にカスタマイズした広告手法が増えている中で、あえて山手線での中づり広告で“アナログ”に届けることで、候補者の方に深く印象付けたいという狙いがありました。実際にこの広告を見て数十人の方からご応募いただき、採用に至った事例もあります」(小河原さん)
ターゲット広告では、2017年に南武線で実施した中づり広告が話題を集めた。「えっ!?あの電気機器メーカーにお勤めなんですか!それならぜひ弊社にきませんか。」「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい。」「ネットやスマホの会社のエンジニアと、もっといいクルマをつくりたい。」といったメッセージで、沿線の研究所やオフィスに努めるエンジニアを“狙い撃ち”した。
「南武線の施策は自動運転やコネクティッドなどの技術を担うITエンジニアをターゲットに実施しました。当時から、自動運転技術やコネクティッドカーなどの新しい技術開発に関わるソフトウェア人材が自動車業界全体で不足しているという課題感がありました。ソフトウェア人材の転職先はIT業界が主流であり、転職顕在層のみにアプローチをするだけでは不十分と考え、転職潜在層にアプローチすべく、沿線に大手の電機メーカーなどの研究施設が集まっている南武線車内でポスター掲示を行いました」(小河原さん)