公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。
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「月の満ち欠け」
直木賞作家、佐藤正午の小説を、「母性」など話題作の公開が相次ぐ廣木隆一監督が映画化。
8年前の事故で妻の梢と娘の瑠璃を失った小山内堅のもとに三角哲彦と名乗る写真家が現れ、「2人は自分を訪ねる途中で事故に遭った」と言いだす。
そこで映画の舞台は昭和55年の雨の東京・高田馬場に転じ、若き日の三角と正木瑠璃という女性の悲しい恋の物語が始まる。
三角はSnow Manの目黒蓮。ドラマでの活躍もめざましく、いまや切ない恋がもっとも似合う男。正木瑠璃には有村架純。美しいが悲しい。許されぬ二人の恋が、やがて悲劇を招く。だが、この悲劇と小山内にはどんな関係があるのか? さらに、瑠璃と瑠璃の関係は?
欠けてもまた満ちる。月に象徴させた〝ある仕掛け〟を受け入れられるか否かで、この映画の評価は変わる。ある人は愛の深さに涙するが、別の人は不気味だと震えるかもしれない。
悲嘆にくれ続ける小山内に大泉洋。梢に柴咲コウ。キャストは素晴らしい。余談だが、昭和50年代の高田馬場の再現が見事だ。
2日から全国公開。2時間8分。(健)
「あのこと」
映像を見ながら、これほど〝肉体的な痛み〟を感じたことはない。それは主人公の目線の先を捉えたカメラワークのせいかもしれない。宣伝文句にある「観た」ではなく「体験した」感覚になる作品だ。
妊娠中絶が違法だった1960年代のフランスが舞台。学業優秀な大学生、アンヌは労働者階級出身。未来を約束する学位取得を目指していたが、望まぬ妊娠に苦悶し、解決策を求めて奔走する。
ノーベル文学賞受賞者の仏作家、アニー・エルノーの「事件」が原作。ベネチア国際映画祭最高賞(金獅子賞)受賞。監督・脚本はオードレイ・ディヴァン。仏映画。
2日から全国順次公開。1時間40分。(啓)
「ブラックアダム」
「バットマン」「スーパーマン」を擁する米DCコミックス・シリーズの新作。5千年の眠りから覚めた破壊神、ブラックアダムは息子の命と引き換えに手に入れた〝呪われた力〟で、破壊の限りを尽くす。彼は、人類の味方か敵か。
善悪二元論で語らず、人々に必要なのは英雄ではなく自由であるとする独自のアンチヒーロー思想を、圧倒的なパワーで描く。
観客が息つく暇もないアクションの連続は、くどいといえばくどいが、好きな人にはたまらないだろう。主演は、元プロレスラーで「ワイルド・スピード」シリーズなどのドウェイン・ジョンソン。はまり役。米映画。
2日から全国公開。2時間5分。(健)
「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」
愛らしいネコの絵で人気を博した英国のイラストレーター、ルイス・ウェイン(1860~1939年)の生涯を描いた作品。
ルイス(ベネディクト・カンバーバッチ)は妹たちの家庭教師、エミリー(クレア・フォイ)と周囲の反対を押し切り結婚。しかし、まもなくエミリーは末期がんに。失意の中、2人は庭に迷い込んだ子ネコにピーターと名付け、愛情を注ぎ始める。
当時の英国では、ペットといえばイヌが主流。ネコは不吉な存在としてあまり人気がなかったが、ルイスのイラストによって、愛猫家たちも認知されるようになったという。監督は日系英国人のウィル・シャープ。英映画。
全国順次公開中。1時間51分。(啓)