学び直す大人の性教育

「エロ本から学べって…」 子供に性をどう教える? 保護者のモヤモヤ

家庭での性教育を難しいと感じる保護者は少なくないようだ
家庭での性教育を難しいと感じる保護者は少なくないようだ

インターネットもスマートフォンもなかった時代に思春期を過ごした中高年の保護者にとって、デジタルネーティブのわが子への性教育は難題だ。性的な情報を入手するのも、発信することも、手元の端末で容易にできる今、子供たちが性的なトラブルに巻き込まれないように何から教えたらいいのか、戸惑う保護者は少なくない。夫婦間で問題意識に温度差があり、モヤモヤが募るケースもある。令和の子供たちが安全に、豊かな人生を送るために、必要な家庭の性教育のあり方を考える。


コンドームの使い方は誰が教える?


「彼女ができたみたいなんだけど」

都内に住む40代の会社員女性は、中学生の息子のことで、夫に相談を持ちかけた。この先、息子の性教育をどう進めればいいか具体的に話し合いたいと思ったからだ。

「思春期の男子は母親を避けたがる。息子も最近、私との会話がめっきり減りました。ましてや性的な発達について、母親から聞くのはタブーだと思っています」

だけど、彼女ができたとなれば、親として放ってはおけない。交際が深まることを想定して、性交渉やコンドームの使い方など避妊の知識を父親から伝えてほしい。女性は夫に頼んだ。

ところが、夫から明確な返事は得られなかった。息子の性教育をめぐっては、以前にも話し合ったことがある。そのとき夫から言われた言葉が、女性の脳裏によみがえった。

「男子はね、公園に落ちているエロ本で、勝手に覚えるもんなんだよ」

夫が小学生のとき、拾った成人向け雑誌を自室に隠し持っていたそうだ。夫婦そろって昭和生まれ。おおらかな時代の空気を想起させる夫の体験は、ほほえましくも思う。だけど、令和に生きる息子には当てはまらない。

「今どき、どこにそんな雑誌が落ちているのか。もっと過激な情報がスマホで見られるから心配しているのに」。女性はそう思いながら、息子に話をしてくれたのか、夫に聞けないでいる。


パパ友同士でも性教育は話題になる


「父親たちも、性教育に関心がないわけではない」と話すのは、都内に暮らす30代の自営業男性だ。

小学生の娘が2人いる父親。夫婦は共働きで、男性は乳幼児期のおむつ替えから、保育園、習い事の送迎、小学校のPTA役員まで引き受けてきた。周囲に教育熱心な父親仲間が多い。

「パパ友との飲み会で、性教育は話題になります。特に男児の父親は入浴時に性器の洗い方をどう教えるかなど情報交換している」

ただ成長に伴って、具体的なことをどう伝えるか、というのは共通の悩みどころだという。

「自分たちが親から性教育を受けた記憶はないし、『結局、男子が性に関心を持つ入り口は、エロ本やエロビ(アダルトビデオ)になるよね』とか『親より友達や先輩から教えてもらうものだ』といったところで、話は着地してしまう」

そんな会話を男として理解できる一方、娘を持つ父親としては複雑だ。

「避妊の知識は最低限、男子も女子も身につけてほしいものだけど、じゃあ自分が娘に教えられるか問われると難しい。それ以前に、妻と性教育について話し合うことすら念頭になかった」と打ち明ける。


性交渉をどう教えるか知りたい保護者のニーズ


こうした悩みを持つ保護者にとって心強いのが民間が開催する性教育イベントだ。不妊治療や妊活支援に取り組むフェムテック企業「ファミワン」(東京都)は、昨年と今年、夏休みに小学生向けの性教育セミナーを開催。計約200組の親子が聴講した。

初開催だった昨年、保護者に実施したアンケートには、「小学5年生のいとこからオナニーやセックスという単語を聞き、質問されて困っていた」、「赤ちゃんができる話も、性行為の話をしっかりしてほしい」など、保護者の赤裸々な声が寄せられた。

セミナーを運営する臨床心理士の戸田さやかさんは、「保護者にとって、性教育=性交渉を教えること、というイメージが根強い。それだけ家庭では話しにくい話題なのかもしれない」と受け止めつつ、こう話す。

「性教育は、自分や相手を尊重するコミュニケーションについて考えること。そのベースとなるメッセージを伝えることなくして、性交渉や避妊の知識を伝えるのは難しいかもしれません」


あなたは大切な存在だというメッセージ


「精子と卵子が出会って命となる。兄弟でも姿や性格が異なるように、あなたがあなたとして生まれてくるのは、何百兆分の一の確率ともいわれる。宝くじに当たるより、雷に打たれるより、落ちてきた隕石(いんせき)に頭をぶつけるよりもずっと低い確率で、あなたが生まれてきたのです」。セミナーではそんなメッセージが伝えられた。

性交渉の具体的な中身を教える前提として、保護者から「あなたが大切な存在だ」ということを伝えてほしいと戸田さんは語る。

性教育のオンラインセミナーでは、看護師が医学的な視点から説明した
性教育のオンラインセミナーでは、看護師が医学的な視点から説明した

もう一つ、戸田さんが保護者に強調したいのは、命が宿る方法は性交渉だけじゃないという視点だ。

子供たちが将来、不妊治療の当事者になる可能性もあるし、同僚や部下など周囲に不妊治療を受ける人がいることも考えられる。

「不妊治療の当事者と向き合うなかで、自然妊娠にこだわりすぎて苦しむカップルを何人も見てきました。不妊治療が保険適用となった令和の時代に求められる、新しい性教育のあり方があるのではないか」と戸田さんは指摘する。

子供たちに伝える際に、戸田さんらが意識するのは事実を淡々と語ることだ。

セミナーでは、看護師の講師が次のように話していた。


赤ちゃんができる方法は3つ


「赤ちゃんができる方法は3つあります。1つは男性が女性の膣内で射精して精子を子宮の中に届ける『性交渉』。2つ目は、お医者さんが子宮に精子を送り届ける『人工授精』。3つ目は、お医者さんが卵子と精子を体の外に取り出して受精させ、子宮に戻す『体外受精』。どの方法で生まれてきてもいい。どの方法で生まれても、大切な赤ちゃんに変わりない」

「妊娠する仕組みには3つの方法があり、そのうちの1つとして、性交渉を捉えれば、科学的な視点で会話がしやすくなるのではないか。また、妊娠出産だけが親子になる方法ではないなど、さまざまな選択肢があることも知ってほしい」と戸田さんはアドバイスする。

では性交渉について、家庭で子供に教えるタイミングは、いつがいいのだろう。

産婦人科医で若年層への性教育に力をいれている高橋幸子医師は「『赤ちゃんはどうやっておなかに入ったの?』と子供に聞かれたときこそチャンス」だと語る。

「性的なことに先入観のない10歳くらいまでに、科学的に性交渉について伝えれば、子供たちは『うん、わかった』といって納得します。もし聞かれたときに、親としてどう答えるか準備ができていなければ、その場では『必ず答えるから、今は待っていてね』と伝えてあげてほしい。保護者が、そこから性教育の本を読んだりして、自分なりの伝え方を探しても決して遅くはありません」

思春期になってから家族という近い関係で性を話題にするのが難しい場合は、「子どもが一人になれるトイレや自室といった場所に、性教育の本をそっとおいてあげるのも一つの手段」だと語る。


一方、避妊の知識を家庭で伝えることは、高橋医師も「保護者にとってハードルが高く、どの家庭でもできることではない」と話す。

「すべての子供が知識を身につけるという観点からは、本来、義務教育で教えることが理想的」としたうえで、家庭での教え方については、次のようにアドバイスをくれた。

「小学生のころからある程度、性の話ができる関係性があるなら、保護者が必要だと感じたタイミングで『練習用』のコンドームと、思春期向けの性教育の本をセットにして渡したり、使い方の動画を活用したりして伝えてみてはどうでしょう」

もし子供がコンドームを隠し持っていたのを見つけた際には「頭ごなしに叱るのではなく『持っているのは偉いね。破れたりすることもあるから、正しい使い方ができるか一緒に確認しよう』と誘ってみたり、将来、緊急避妊が必要になったときには、どうしたらいいか親子で考えたり、『大きな責任が伴うことだからセクシュアルデビューは慎重に』と伝えたり、それぞれの家庭の価値観に基づいて伝えるのがいいと思う」と話す。


幼児期から学ぶ「プライベートパーツ」


家庭での性教育において、もう一つ、押さえておきたいポイントは、性的なトラブルの加害者と被害者、その双方にならないために教えておきたい「プライベートパーツ」についてだ。

セミナーでは戸田さん(右上)が小学生にプライベートパーツについて語りかけた
セミナーでは戸田さん(右上)が小学生にプライベートパーツについて語りかけた

戸田さんは「胸、お尻、性器という水着で隠れる部分と口。この4つはあなたの身体の、特に大切な場所だということ。家族でも友達でも、自分以外の他人が勝手に見たり、触ったり、写真を撮ったりしてはいけない場所で、あなた自身も、他の人のプライベートパーツを許可なく見たり、触ったり、写真を撮ったりしてはいけない。このことを幼児期から繰り返し、家庭で伝えてほしいです」と強調した。

性について、家庭内でオープンに話せる空気があれば、何かトラブルが起きた際にも、子供が打ち明けやすくなるという。

「胸が発達してきたせいか、下着に当たって痛がっているんだよね」

2人の女児がいる自営業男性は先日、妻から長女の最近の様子を聞かされた。

「すぐ側に娘がいる状況で、妻がそういう話をしてきた。正直びっくりしましたが、性的な発達の話であっても、父親の私を蚊帳の外にはしないよ、という妻なりのメッセージだったのかもしれない。それに応えられるように知識を身につけていこうと思います」


性に関する知識を十分に学ばないまま過ごしてきた中高年世代が、自身の体調の変化だけでなく、職場での同僚や部下に対する健康配慮、家庭における性教育の場面などで、困難に直面している。そんな大人たちの戸惑う声を拾いながら、性教育の学び直しにつながる記事をお届けします。


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