サッカー日本代表がドイツ代表に勝利したことで、ワールドカップ(W杯)カタール大会への注目度が日本中で格段に上がっています。私が指導に携わるびわこ成蹊スポーツ大学サッカー部においても練習前後の話題は、W杯一色となっています。このリレーコラムのテーマは「スポーツが未来を変える」ですが、スポーツによって一夜にして未来が変わるという事実を目の当たりにしました。
このコラムが世に出るときには、1次リーグ最終戦のスペイン代表戦も終了しています。第2戦のコスタリカ代表に敗れたことで難しい展開になりましたが、サッカーに関わる者として、一人の日本国民として、日本の躍進を願っています。
短期的な視点で捉えると今回のドイツ戦の勝利は歴史的な快挙で、一見、日本のサッカーは前進しているようにみえます。しかし、日本サッカー協会(JFA)が掲げる「JFAの約束2050」の「2050年までにW杯で優勝する」との視点で考えたとき、われわれは今回の勝利を手放しで喜ぶことはできないのではないでしょうか。
少なくとも私は、次の理由から手放しで喜ぶことはできません。今回の勝利は10試合に1回起きるか、起きないかのような偶然の要素が大きく、ドイツに追加点が生まれていれば、結果は異なるものになっていたでしょう。つまり、それは再現性が低いということです。
ドイツのような強豪国がひしめくW杯の決勝トーナメントを勝ち抜くには、再現性を高めていくことが不可欠です。しかし、現在の日本にその再現性はありません。
これまでの日本サッカー界に関わるすべての人々のたゆまぬ努力の結果、日本人選手は欧州のクラブでタイトル獲得に貢献したり、欧州最高峰の舞台である欧州チャンピオンズ・リーグ(CL)で活躍したりするようになりました。しかしながら、日本人指導者で選手と同様の活躍をする人材は、まだ育っていません。再現性を高めていくためには、高いレベルで経験値を積んでいる選手以上に、多くの経験値を持つ指導者が必要ではないでしょうか。
今回のW杯のドイツ戦のたった90分で、一国をこれほどまでに熱狂させるサッカーというスポーツの大きな力を、改めて認識できました。W杯で優勝できれば、どれほど多くの人々に勇気と感動を与えられるかと想像すると、ワクワクします。W杯優勝の一助となれるよう、一人の指導者として責任と誇りを持ち、グラウンドに立ちたいと思います。
◇
田中智彦(たなか・ともひこ) びわこ成蹊スポーツ大学スポーツ学部助手。修士(教育学)。大阪教育大学でGKとしてプレー。その後、同大学大学院に進学し、コーチとしてのキャリアをスタート。京都学園大学(現京都先端科学大学)サッカー部コーチを務めたあと、現職。現在はコーチングに関する研究を行う。
◇
スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。