岸田文雄首相が浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相に、令和9年度に防衛費とそれを補完する関連予算を合わせ、国内総生産(GDP)比2%に達する予算措置を講じるよう指示した。段階的に増やし、最終的に11兆円規模にする。
「数字ありき」との批判が一部から出ている。だが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費の目標は「2%以上」だ。民主主義国の国際標準としてGDP比活用はおかしくない。自民党が先の参院選で、防衛費2%以上を念頭に置くとの公約で勝利した点も重要だ。
日本は、核武装した中国、北朝鮮、ロシアという専制国家に囲まれている。ウクライナを除けば最も厳しい安全保障環境下にある。脅威の増大で2%では足りなくなる恐れもある。国家国民を守り抜くために必要な防衛費と関連予算は確保しなければならない。
首相指示には問題点もある。抑止力の中軸となる自衛隊の能力強化に直結する防衛費という「真水」の予算が十分に確保されるのか不透明さが残るからだ。
年末までに、来年度から5年間の防衛費総額が決定されるが、その規模が真に実効性ある抑止力を持てるかを左右する。抑止の対象である中露、北朝鮮の政府・軍は、この数字を注視している。
パッケージとして位置付けられた4年度当初予算と3年度補正予算の防衛費の総額は約6兆2000億円で、GDP比約1・1%にすぎない。
防衛省は施策の積み上げで今後5年間の防衛費に計48兆円が必要との立場だ。現行の中期防衛力整備計画の約27兆4700億円の約1・7倍だが、この「真水」だけでは9年度に2%に達しないだろう。一方、財務省は30兆円台半ばを唱えるが話にならない。中露、北朝鮮の脅威に対処できるわけがないからだ。抑止力向上には防衛省に沿った決着が求められる。
岸田政権は、サイバー安全保障や防衛に資する研究開発、インフラ整備も「補完する予算」に算入するが、これを「水増し」に利用して防衛費という真水を減らす手段にしてはいけない。法執行機関であってNATO基準では国防費に算入できない海上保安庁の予算も同様だ。無理な算入で2%を称しても「水増し」を見抜かれ、抑止力を損なう。岸田首相は肝に銘じてもらいたい。