クイズ王をゾクゾクさせた?「毒」がもたらす深~い世界 国立科学博物館 特別展「毒」

怖いからこそ知りたい、怖いからこそ知りたくない。そんな刺激的な「毒」の世界にどっぷり漬かれる特別展が、東京・上野の国立科学博物館で来年2月まで開かれている。オフィシャルサポーターを務めるクイズプレーヤー、伊沢拓司さんに、展覧会の魅力やおすすめポイントを聞いた。

イラガの幼虫の拡大模型の前でベニテングタケのぬいぐるみを手に展覧会をアピールする伊沢拓司さん
イラガの幼虫の拡大模型の前でベニテングタケのぬいぐるみを手に展覧会をアピールする伊沢拓司さん

あらゆるものが「毒」である

「こんな幅広い展示が実現したのは、科博(国立科学博物館)だからこそ。毒をテーマに、ここまでできるんだとわくわくしました」

初めて展示を目にした伊沢さんは、少年のように目を輝かせた。それもそのはず、「毒」展には動物学、植物学、地学、人類学、理工学という科博の各分野から研究者が集結。監修統括の細矢剛・植物研究部長は「日本ではなじみが薄いかもしれませんが、海外では〝毒〟展は珍しくありません。科博の全部門がかかわった今回の展示は、実に科博らしい展覧会になったといえます」と太鼓判を押す。

伊沢さんを中心にずらりと並んだ特別展「毒」監修の国立科学博物館の研究員
伊沢さんを中心にずらりと並んだ特別展「毒」監修の国立科学博物館の研究員

その言葉通り、展覧会が取り扱う「毒」の種類は実に幅広い。毒の定義は「ヒトを含む生物に害を与える物質」であること。毒蛇やきのこの毒など一般的に「毒」として思い浮かべるものだけでなく、取りすぎると毒になる酒、生態系に悪影響を与えるマイクロプラスチック、アレルギーを起こす物質なども含まれる。

「毒というのはトピックとしてすごく刺激的。自分たちの生命にかかわるし、フィクションの世界、それこそ少年漫画にも出てきます。ポケモンにも、水や炎と並んで『毒タイプ』がありますよね。科学の入り口として、興味本位で来てほしいんです」と伊沢さん。「コノセカイハ、ドクダラケ。」という展覧会のキャッチコピーを実感できる充実の内容となっている。

しかも、展示はただ毒を紹介するだけではない。例えば、トリカブトやドクゼリなどが有名な植物毒の展示を見てみよう。毒をもつ植物はそこそこあり、熟す前のウメやアンズなどの果実にも毒があることが知られている。展示では、どんな毒があるのか、どこに毒があるのか、いつ毒を持つのかが詳細に分かるが、それだけではないのだ。

植物部門の監修をした田中伸幸・陸上植物研究グループ長は「花や葉、根に毒をもつのに、種に毒がない植物は多い。鳥に運んでもらいたいからです。ジャガイモの新芽に毒があるのは、新芽を食べられたくないからです。植物は、毒を使って自分のしてほしいことをさせているんです」と解説する。植物が何のために毒をもつのか、そこまで考えさせられる展示構成となっている。

動物、植物、菌類、鉱物から人工毒まで、展示数は250点以上!
動物、植物、菌類、鉱物から人工毒まで、展示数は250点以上!

幻でなかった毒羽をもつ鳥

小さいころ、生き物の本を読んで、毒をもつ生物に興味を持ったという伊沢さん。「怖くて会いたくない存在だったので、よく知ろうとしたんです。毒は不思議で怖くて、それゆえに魅力的な存在だと思います」とそのきっかけを語る。

そんな伊沢さんが今回、特に興味をひかれたと答えてくれたのは、毒鳥「ズグロモリモズ」だ。毒をもつのはまれという鳥類の世界で、羽毛と皮膚に毒をもつ極めて珍しい存在。会場には実際のズグロモリモズの剝製(はくせい)も展示されている。

「鴆毒(ちんどく)をもつ、ピトフーイと総称される鳥の一種ですよね。剝製は初めて見たので、こういうサイズ感だったのか、ととてもリアルでした」

ちんどく? ピトフーイ? 慣れない言葉にこちらが戸惑う。「鴆毒」とは、鴆という鳥の羽の毒のこと。長らく毒を持つ鳥は確認されていなかったため、鴆は空想上の鳥とされてきた。しかし、近年になって、かつてピトフーイと呼ばれた鳥類の中に毒を持つズグロモリモズが発見され、鴆が実在していた可能性が高まったのだ。このように、「毒」の世界には次々と発見がある。

「南の島に行く機会も多いので、アンボイナガイは常に恐れていましたが、ズグロモリモズも怖いですね。実際のサイズを見て、でかいなぁって…」

笑顔で続ける伊沢さん。ちなみにアンボイナガイとは、強力な毒のある銛(もり)をもつ海洋生物で、今回の展示でも紹介されている。インタビュー中に次から次へと毒のある生き物が出てくるあたり、伊沢さんが今回の毒展を心から楽しんでいることがうかがわれる。

「オフィシャルサポーターになった一番の理由は、楽しそうだったから(笑)。ぼく自身、この展覧会を自分の目で見てみたいとすごく楽しみにしていたんです。オフィシャルサポーターなんて、展覧会を特等席から見るようなものじゃないですか!」

伊沢さんは、小学生のころ、「ダイオウイカ」の展覧会を見たことを今も覚えている。今回の展示も、「子供にとっては、大人になっても覚えていられる展覧会として、大人は、よりリアルに恐怖を感じられる展覧会として、誰しもに刺さるものがあるはず」と伊沢さんは断言する。

実物の約30倍というハブの拡大模型を紹介する伊沢さん
実物の約30倍というハブの拡大模型を紹介する伊沢さん
特別展「毒」のHPはこちらから

きのこの大半は「毒があるかわからない」

自分の身に迫る「恐怖」として毒を学ぶことで、恐怖という実感をもつ。それこそが科学への扉を開くきっかけとなる。伊沢さんが今回の展示で「科学」を感じたのは意外な点だった。それは、展示の解説文に「分かっていない」とあけすけに書いてあることだ。「分かるところまで分かって恐れる。分からないところは分からないこととして恐れる。それこそが科学的な態度。そういう科学リテラシーも、毒展を通じて身につくんじゃないでしょうか」

例えば、毒と聞いて多くの人が思い浮かべる「毒きのこ」。地球上には推定で10万種以上のきのこが存在するとされるが、その大半は毒があるかどうかわかっておらず、名前すらついていない。

きのこの謎は多いが、「派手な色は毒きのこ」というのは迷信なのでご注意!
きのこの謎は多いが、「派手な色は毒きのこ」というのは迷信なのでご注意!

後になって「毒」だと判明することもある。人間が作りだした毒として紹介されている「POPs(残留性有機汚染物質)」のひとつである「DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)」はその代表例だ。

安価で大量生産できる化学物質として、DDTは殺虫剤や農薬として使われた。日本でも戦後、米国からもたらされ、シラミ駆除などに使用された。子供に直接、DDTを散布する様子を写真で見たという人も多いだろう。昆虫にだけ毒性を発揮し、人類には害がないとして、DDTの殺虫作用を発見した化学者、パウル・ヘルマン・ミュラーは1948年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

だが、その後、DDTは環境中に長くとどまり、生態系に悪影響を与える恐れが分かってきた。現在ではほとんどの国で使用されていない。

同じく現代社会になくてはならない合成樹脂のプラスチックも、環境への悪影響が指摘されている物質のひとつだ。5ミリ以下の小さな「マイクロプラスチック」は海洋中のPOPsを吸着しやすく、生態系にどのような影響を及ぼすかが今まさに研究されているところだ。

「いずれも、使用し始めるときは便利な化学製品です。その害は、時間がたってこないと分からないんです」と化学担当の林峻研究員。毒展を見た子供たちの中から、今回の展示で「分からない」とされた問題の研究者が誕生するかもしれない。

クイズが展示への興味の橋渡しに

もうひとつ、展示を深く楽しむために役立ちそうなのが、伊沢さんが率いる東大発の知識集団「QuizKnock(クイズノック)」から出題される毒クイズだ。

「展示をよく見て、その後、しっかり考えることで解けるようになっています。クイズはあくまで展示のおまけですが、クイズを目当てに来てくれる子供たちが展示までしっかり読んでくれるきっかけづくりができたらうれしいです」

「QuizKnockからの挑戦状」と題されたクイズは3種類あり、会期中に入れ替わる。「クイズというきっかけで、説明書きは読むのが難しそうだなと思っているお子さんにとって、『意外と説明もおもしろいじゃん!これからも読んでみよ』と思ってもらえるようないい橋渡しになれればと思います」

実際に解いてみたが、かなりの難問もあり、ただ知識を問うだけでなく、理由も考えさせられる内容となっている。

伊沢さんは「毒クイズを、展示との橋渡しにしてほしい」と語る
伊沢さんは「毒クイズを、展示との橋渡しにしてほしい」と語る

幅広い内容の展示に、「最初は一通り軽く回って、毒に関しての知識をつけてほしい。2回目は、用語に親しみながら、奥にこんなコーナーがあったのかとさらに楽しんでほしい」と楽しみ方を教えてくれた伊沢さん。

毒にも薬にもならない、という慣用句があるが、「毒展」はその逆。まさに、毒を知ることで人生が楽しくなる、薬のような展覧会だ。

特別展「毒」のHPはこちらから

提供:フジテレビジョン

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