サッカーはワールドカップ(W杯)を機に、大きく変化することが多い。カタール大会で目立つのは極端に長いロスタイムで、ときに10分を超えるような試合もある。浪費した時間を厳密に加算するようになったためで違和感はあるものの、前回ロシア大会で物議を醸したビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)同様、数年後には定着していてもおかしくない。
カタール大会では故障者の治療や時間のかかる判定が見当たらない試合でも、前後半に7~8分ほどのロスタイムが取られるケースが多い。背景には国際サッカー連盟(FIFA)の意向がある。開幕前の審判ブリーフィングでFIFAのピエルルイジ・コリーナ審判委員長は、「ゴールセレブレーションは1分から1分半かかり、3得点なら5分、6分の時間が消える。私たちは正確にロスタイムを計算したい」と説明した。
11月21日のイングランド対イラン戦では、後半ロスタイムに入ってから13分後にゴールが生まれている。6-2の乱打戦になったことでゴールセレブレーションは長くなり、前半も14分のロスタイムを設定。コリーナ委員長の説明通りで、選手からの際立った反応もいまのところはない。
当たり前のことをしているに過ぎない。そもそも見苦しくさえある時間稼ぎが「マリーシア」(ポルトガル語でずる賢さ)ともてはやされるようなスポーツは、サッカーのほかにないといっていい。観客も長いロスタイムに驚きはしても不満はないようで、競技進行に問題は生じていない。強いて挙げれば、大差が付いた試合でどうしても間延びしてしまうことぐらいだろう。
過去にも新技術の導入やルールの新解釈がW杯で話題になったことはある。近年では2014年ブラジル大会でボールがゴールラインを越えたかを判定する「ゴールラインテクノロジー」(GLT)や、FK時などにボールや壁の位置を白線で明示するスプレーが導入された。いまではすっかり定着している。
賛否両論でかまびすしかったのは、ロシア大会で導入されたVARだ。そもそも録画映像を活用したプレー検証に違和感を抱いたり、プレー中断で流れが損なわれることに嫌悪感を表したりする選手やサポーターも多かった。しかし、ロシア大会から4年以上がたって欧州主要リーグや日本のJ1で不可欠なツールとなり、廃止となったら猛反発を受けるだろう。
サッカー界のいいところは伝統のあるスポーツでありながら、時代の変化に即した柔軟な対応をいとわないところにもある。ロスタイムの厳密な計測と適用、AI(人工知能)を活用してオフサイドの判定を補助する「半自動オフサイド技術」といったカタール大会発の新しいアイデアも、次期W杯では話題にすらならないのかもしれない。(奥山次郎)