大阪ムスリム物語

寛容の美徳 分断を超えて

結婚式で涙をぬぐう新婦=大阪市西成区
結婚式で涙をぬぐう新婦=大阪市西成区

大阪市西成区にあるモスク「マスジドイスティクラル大阪」で構えたカメラの向こうには、白いベールをかぶった新婦と彼女の手をとって導く新郎がいた。結婚式に参列したムスリム(イスラム信徒)たちが、2人にカメラやスマートフォンを向ける。子供たちの笑顔も会場に花を添えていた。

新郎新婦を中心に記念撮影。衣装は違っても祝福する気持ちや笑顔は万国共通。そして親指と人差し指でハートマークをつくるハンドサインも同じ=大阪市西成区
新郎新婦を中心に記念撮影。衣装は違っても祝福する気持ちや笑顔は万国共通。そして親指と人差し指でハートマークをつくるハンドサインも同じ=大阪市西成区
結婚式で涙をぬぐう新婦
結婚式で涙をぬぐう新婦
結婚式を実家があるインドネシアにライブ中継するため準備をする新郎新婦
結婚式を実家があるインドネシアにライブ中継するため準備をする新郎新婦

実は約20年前、遠く北アフリカのアルジェリアで、ムスリムの結婚式に立ち会ったことがあった。当時は大学院でイスラム社会をテーマに研究しており、アルジェリアには現地調査に来ていた。初めて目にする異国の結婚式に心を躍らせ、カメラを構えたことを記憶している。

ただ、調査は失敗に終わった。反体制デモを撮影していた際、警察に拘束され、調査継続が不可能になったからだ。まだ学生の私は警察署で調書をとられ、初めての経験に、頭を抱えていた。

このときに助けてくれたのは、調査中に仲良くなったアリという新聞記者だった。彼は何も言わず警察署で一晩付き添ってくれた。警察車両で空港に送られる際に「気にするな。また会おう」と肩をたたいてくれた。

アリが発揮したのは、イスラムに根付いた他者に対する「寛容(カラム)」の美徳だったのだと、今になると分かる。イスラムは聖地メッカへの巡礼を義務とする。だから旅人や異邦人に対して歓待の精神を発揮しなければならない。それが宗教の違いも乗り越える寛容さにつながる。

熱心にアラビア文字を学ぶ少年
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アラビア文字を読む教室。カードを出され「ダ」と正解を答える少女
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アラビア文字の読み方を学ぶ子供たち。イスラムの聖典コーランを読むため、3~16歳の60人以上が学んでいる
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米同時多発テロの後もシリア内戦やイスラム国の台頭などが報じられ、今もイスラムに危険なイメージがつきまとう。だからこそ、普通に暮らす大阪のムスリムたちの本当の姿を伝えたい、と私は考えた。

今回のシリーズで大阪に住むさまざまなムスリムを取材して感じたのは、やはり、彼らの優しさ、寛容さだった。宗教上の禁忌で撮影できないポイントはあったが、彼らは無遠慮に踏み込んでくるカメラに対しても基本的に優しい。

この国で学び、働き、暮らすムスリムたちを取材すると、そこには当たり前の喜びも、悔しさもあった。普通に家庭を築き、仕事をこなし、子供を育てていた。生まれた国や宗教、民族が違っても、しなやかに違いを受け入れ、それぞれの土地でたくましく生きていく。これは「分断」が叫ばれるこの時代を生き抜くヒントでもあるように感じられた。

(写真報道局 安元雄太)

関西にあるムスリム墓地。イスラムでは土葬が必須のため地域住民の理解を得られないケースもあり、埋葬場所の不足が問題となっている
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20年ほど前に来日したインドネシア人のディルハムさん。日本語をプリントしたシャツなどの日本みやげを製作し、ネット販売している
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