〈特報〉ウェブ試験替え玉 京大院卒、関電社員の重い代償

逮捕された田中信人容疑者=21日、警視庁丸の内署
逮捕された田中信人容疑者=21日、警視庁丸の内署

新型コロナウイルスの感染拡大以降、活用が広がった新卒採用試験の「ウェブテスト」。自宅でも受けられるため、地方の学生などにはありがたいシステムだが、監視の目がほとんどない上、解答集も流通するなど抜け穴が多く、交流サイト(SNS)には代行業者がはびこる。警視庁は11月、ウェブテストの「替え玉受験」を全国で初めて立件。就活生の間では広く知られていた不正だが、ついに捜査のメスが入った。

高学歴や実績アピール

《京都大学大学院卒》《元外コン勤務》《ウェブテ請負経験約4年、1人で計4000件以上、通過率95%以上》

新卒採用試験のウェブテストを替え玉受験したとして、私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで、警視庁に逮捕された関西電力社員、田中信人容疑者(28)。ツイッターのプロフィル欄には、華々しい経歴が並ぶ。替え玉受験の過去実績として、外資金融系の企業、大手商社、広告代理店など、「就活偏差値」の高い企業がズラリと並ぶ。

ウェブテスト替え玉受験の疑いで逮捕された田中信人容疑者のツイッターアカウント(画像を一部処理しています)
ウェブテスト替え玉受験の疑いで逮捕された田中信人容疑者のツイッターアカウント(画像を一部処理しています)

田中容疑者は、ウェブテスト1科目あたり2千円で代行を請け負っていたとみられる。2科目なら4千円、性格診断も代行する場合は5千円。大学生にとって出せない金額ではない。

《担当した方から続々と内定終活報告いただいています!心から感謝してくれる人が多く、僕としてもすごくうれしいです》(原文ママ)

ツイッターには連日、就活生が田中容疑者に代行を依頼し、内定につながったという〝実績〟を投稿。内定した就活生から、田中容疑者に感謝を伝えるLINE画面をスクリーンショットした画像が添付された投稿もあった。

ネット就活不正横行

「不正をして選考を突破した学生は周りにも多くいる」と話すのは、就職活動を終えた東京都の大学4年の男子学生(22)だ。代行だけではなく、千円から5千円ほどの解答集が販売されているほか、受験中にインターネットで検索する人もいるという。

男子学生は「簡単に不正ができるため、就活生の能力を適切に把握できているとは思えず、真面目にやった人が損をする仕組み」とし、監視カメラ型試験の導入や学力試験の廃止などを訴えた。

就職情報会社のディスコが令和3年7月に就活生1200人に行った調査では、8・4%が「自分が受験した企業で不正の経験がある」と回答。「友人などの受験企業を手伝った」としたのも9・3%に上った。今回の事件は氷山の一角に過ぎない。

企業側も不正に気が付いていないわけではない。カンニングを防止しようと、受験中の就活生をパソコン(PC)のカメラで監視する対策をする企業もある。

こうした対策はなりすましを防止する措置だが、田中容疑者は上手だった。ウェブ会議システムの画面共有機能を使い、就活生のテスト画面を田中容疑者のPCに送信。女子学生の場合は、髪の毛にイヤホンを隠し、田中容疑者が解答を耳打ちしていた。

捜査関係者も「不正をしていない人が落ちてしまう。正直者がばかを見る状況だ」と憤る。

同様の業者次々閉鎖

警視庁は、田中容疑者に依頼した東京都の大学4年の女子学生(22)も書類送検した。この女子学生は、田中容疑者に23社分のウェブテストの代行を依頼し、計約10万円を支払っていた。

警視庁は書類送検した女子学生を含め、学生5人を捜査。うち4人は途中で選考を辞退し、1人は内定を辞退したという。書類送検された女子学生は、「軽はずみな行動だった」と反省しているという。代行料金よりも大きな代償を払うことになった。

警視庁の調べでは、田中容疑者は今年1~7月だけでも、約300人から請け負い、約400万円を得ていたとみている。それ以前にも別の人物とグループで、同様にウェブテスト代行をしていたとみられる。

警視庁の調べに対し、田中容疑者は「小遣い稼ぎで始めた」と供述。「就活生から感謝され、やりがいを感じていた」と話した。

警視庁のサイバーパトロールによって発覚した今回の事件。《ウェブテスト悩まれてる方は気軽に相談ください~!》。悪びれることなくネットにあふれていた同様の代行業者は事件直後、続々とサイトを閉鎖していた。(橘川玲奈)

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