陳銘俊の一筆両断

出よ!新しい日中、日台関係を造るサムライ

陳銘俊氏
陳銘俊氏

日中国交樹立50周年を迎えた今年、日本の新聞やテレビにはこのことに関するさまざまな記事や番組が見受けられます。しかしこの50年はわれわれ台湾人にとっては「国交のない苦難の時代」でもありました。

日本の若い人の間では知らない人もいますが、台湾はかつて日本の一部だったのです。太平洋戦争では20万人以上の台湾の若者が日本の軍人・軍属として前線に向かい、3万人を超す戦死者を出しました。また日本本土ほどではありませんが米国の爆撃機による空襲を受けた地域もありました。

しかし、1945(昭和20)年の日本の敗戦に伴い、台湾は蒋介石総統が率いる中国(中華民国)に返還されました。その時台湾および中国大陸にいた日本人は比較的スムーズに日本に引き揚げることができました。蒋介石が「老子」にある以徳報怨(恨みに対して徳をもって接す)の言葉の下に日本人の帰還を進めたからです。酷寒のシベリアで何年も抑留されたり、生きて帰れなかったりした人々とは対照的でした。

その後、中華民国は中国共産党との内戦に敗れて、台湾と周辺の島々のみを領有することになりました。1949年には大陸に「中華人民共和国」の建国が宣言されたものの、日本は1951(昭和26)年に米欧とサンフランシスコ講和条約を、中華民国と日華平和条約を結びました。共産中国ではなく、台湾との国交を選択したわけです。しかし、日本が1972(昭和47)年に中華人民共和国(以下「中国」)と国交を結ぶと同時に日本と台湾は国交を断つことになりました。

その結果、日本における台湾の出先機関はさまざまな外交権限を失ったのみならず、「二つの中国を認めない」とする中国の顔色をうかがうことを優先する人々によってフォーマルな場から締め出されていきました。国や地方自治体の機関の中には、台湾関係者からというだけで電話さえとらないところもありました。自治体の特産品のPRというビジネスの場においてさえ、いまだに台湾の貿易関係者を招待しないところがあるのは残念です。彼らは台湾の購買力を評価していないのでしょうか? 国交がないというだけでこのような態度をとる人は「自縄自縛(じじょうじばく)」で随分損をしていると思います。

しかし、台湾人は日本が大好きです。世論調査の「好きな国」ではいつも日本がトップになります。コロナ前には人口の4人に1人に近い割合が日本に来ていました。日本からも年間250万を超える人が台湾を訪問していました。日本と台湾は地震や水害などの災害時にはお互いに真っ先に駆け付け、義援金も出し合う仲です。東日本大震災の時には台湾の市民から250億円もの義援金が寄せられました。両国は単に仲が良いというレベルではなく、「兄弟の国」と言ってもよいと思います。

また多くの日本人は「台湾は親日の国だから」と言います。台湾に行ったことがない人でも、感覚的にそう思っているようです。こんな国が日本の周りにいくつあるでしょうか? ロシア、北朝鮮、韓国、中国など、日本を取り巻く国々の態度は非常に厳しいものがあります。そのほかのアジア諸国も「特別に親日」とは思えません。それなのに「国交がない。中国を刺激したくない」というだけで台湾を平等に扱わず、要人の行き来を渋ったりするというのは解せない思いです。

あり得ないこととは思いますが、もし台湾が「反日政策」に転じたらどうなるでしょうか? 逆に日本が孤立化するのではないでしょうか? もし「台湾は親日国だから冷たくしても大丈夫だ」と思っているとすれば、それは間違っていると思います。

台湾はいろいろなことがあっても、日本の悪口はあまり言いません。台湾人にとって一番信頼できる国は日本と米国だと思っているからです。日本の水害、地震、コロナなどの災害に対しては先頭に立って日本を助け、支えてきました。その日本から差別的な扱いを受けていることを台湾の 国民が知ったら反発して「親中」に走る可能性も考えられなくはありません。

いま熊本県菊陽町にTSMC(台湾積体電路製造)、SONY、デンソーが合弁で大規模な半導体製造工場を建設していることはご存じだと思います。TSMCは世界最大手、最高級の半導体製造会社で、約8000億円の工場建設費のうち日本政府がほぼ半額を出資することで誘致が決まったものです。

日本政府はなぜそこまでしてTSMCを誘致したのでしょうか? それは半導体が携帯電話や自動車からロケットに至るまであらゆる製品に組み込まれ、それがなければ生活、産業、防衛など、すべてが回らない社会になっているからです。かつて日本は世界の半導体シェアのトップを占めていました。しかし、今は台湾がトップです。また数量だけでなく微細加工技術で台湾は世界の最先端を走っています。台湾は日本や米国の知的財産権を侵害せず、自力でここに到達しました。

一方、中国への技術協力や工場進出には知的財産の漏洩(ろうえい)問題が付きまとっています。新日鉄の特別な協力で立ち上がった上海の宝山鋼鉄股份有限公司の特許侵害はその最たるもので、国際的な訴訟にまで発展しています。日本は国交樹立後中国に3兆6600億円にのぼるODA資金(政府開発援助)を提供してきました。1979(昭和54)年12月に大平正芳首相が訪中し、「より豊かな中国の出現がよりよき世界につながる」と言ったことから始まったODAですが、そのお金がミサイルや軍艦になっていると指摘する人もいます。それが本当なら、日本のお金が台湾の首を絞め、日本自身の存続をも脅かしつつあるのではないでしょうか?

今年8月に米国のペロシ下院議長が台湾を訪問した後、中国は台湾を取り巻く海域にミサイルを撃ち込み、そのうちの5発が日本の排他的経済水域内(EEZ)に落下しました。これに対する日本の抗議にも「日本との間にEEZの協定はない」など、国際法など知らぬ存ぜぬの答えが返ってきました。また6月には中国とロシアの艦隊が宗谷岬、津軽海峡、対馬半島を通って日本列島を周回しました。この段になっても中国の顔色をうかがう必要があるのでしょうか?

日本はそろそろ目を覚まして、本当に信頼できる国と手を組む時期になったのではないでしょうか? マーケットの大きさという短期的な利益だけに目を奪われず、安全保障を含めた長期的な視野に立つ節目に来ていると思います。日本と台湾の間には、半導体だけでなく、人工知能、循環経済、再生エネルギー、水素発電、コロナ対策、バイオテック、ワクチン開発、燃料電池、電気自動車、ロボット、ドローンなど協力できる分野がたくさんあります。

しかし、日本と台湾が互いに安心して、対等に付き合うにはやはり法律のバックグラウンドが必要だと思います。米国も中国を承認し、台湾と断交しましたが、その前に「台湾関係法」を制定しました。また、最近在米機関の名称を「台湾代表処」に変えて外交特権を付与することなどを含む「2022年台湾政策法案」を上院に上程しました。しかし、日本には台湾と対等に付き合うための法律はありません。これがなければ相変わらず自虐意識の下に中国の顔色をうかがい、自縄自縛に陥ってしまいます。

25年前にイギリスが返還したとき、香港の社会制度や生活様式は「50年不変」とした約束は、中国によって破られました。香港がああなった今、日本と台湾が「自由と民主政治を守る最前線に立たされている」という覚悟を持つことが必要だと思います。

私の管轄する九州・山口は明治維新の原動力になった地域です。再びここから日本を動かし、世界の自由と民主主義を守るリーダー(サムライ)が生まれることを期待したいと思います。

ちん・めいしゅん 1964年3月、台湾東部、花蓮県生まれ。台北市の中国文化大韓国語学科を卒業後、台湾外交部入り。大阪外国語大(現大阪大)や慶応大への留学経験がある。カリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学客員研究員。許世楷・台湾駐日代表(当時)の補佐官や台北駐ボストン経済文化弁事処の副処長などを歴任し2018年7月から日本の内閣官房にあたる台湾総統府で機要室長を務めた。趣味は語学研究。

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