政府が進める全世代型社会保障制度改革の一環として、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の改正論議が本格化している。
75歳以上の高所得者が支払う年間の保険料の上限を、現行の66万円から80万円へ引き上げる方向で調整している。引き上げ幅の14万円は過去最大である。年収153万円超の中所得者の保険料も、所得に応じて増やす方針だ。負担が増えるのは、加入者全体の約4割に上る。
高齢化を背景に医療保険財政は逼迫(ひっぱく)している。制度を維持するためには「応能負担」を確実に進めなければならない。すべての団塊の世代が75歳以上になる令和7年に向けて、医療費の増加に拍車がかかる。政府は来年の通常国会への関連法改正案の提出を目指す。速やかに成立させるべきだ。
もっとも、制度改正で75歳以上の1人当たりの保険料は年4千円上がる見通しなのに対し、現役世代の引き下げ効果は、加入する公的医療保険によって年300~1100円にとどまる。一層の改革は避けられない。
今回の見直しには、世代間の不公平解消という意味合いもある。4年度の75歳以上の医療費は窓口負担を除き約17兆円に上る。このうち約5割が公費で、約4割は現役世代の保険料の一部を回す支援金で賄っている。75歳以上の保険料は約1割にすぎない。
しかも4年度の後期高齢者1人あたりの保険料は、制度が発足した平成20年度と比較すると、約1・2倍にとどまるが、現役世代の支援金は約1・7倍と伸びは大きい。現役世代への過度な負担が、日本経済に与える影響も考慮すべきであり、是正は必要だ。
介護保険制度の見直しでも、所得の高い65歳以上の保険料を増額する方向で検討が進んでおり、高齢者の反発が予想される。政府には、制度改革の必要性を丁寧に説明することが求められる。
75歳以上の保険料は、岸田文雄首相が大幅な引き上げを明言している出産育児一時金の財源にも充てる方針だ。
出生数は新型コロナウイルス禍の影響もあり、将来人口推計より7年程度早く減少している。少子化は一朝一夕に克服できるものではないが、社会全体で出産や子育てを支援することが少子化対策に求められていることを、改めて認識する契機にしたい。