Q 60代女性です。今年6月、おなかの張りや食欲の低下を感じて病院を受診、精密検査を受けました。すると卵巣がんが腹腔(ふくくう)内に広がったⅢC期と診断されました。まずは腹腔鏡手術で、おなかのがんの広がり具合を診断したうえで、安全に切除できる子宮の全摘術を受け、同時に右側の卵巣・卵管を切除しました。手術後10日目に高悪性度漿液(しょうえき)性腺がんと診断され、パクリタキセルとカルボプラチンという2種類の抗がん剤を併用した化学療法(TC療法)が始まりました。
私が診断されたⅢC期というのはどういう状態なのでしょうか?
A 卵巣がんが骨盤外の腹腔内に広がったり(播種)、後腹膜リンパ節に転移したりした状態がⅢ期となります。Ⅲ期にはA、B、Cの亜分類があり、ⅢC期はリンパ節転移の有無にかかわらず、粗大(2センチ以上)な腹膜播種がある状態です。卵巣がん患者の約半分はⅢ期以上ですが、そのうちの多くはⅢC期で、初回治療時点では卵巣がん患者の30%ぐらいを占めます。今回は腫瘍マーカーの検査で、CA125の値が基準値(35以下)より大幅に高い500超で、ⅢC期でした。
Q 初回手術では、腹腔鏡で切除しやすいがん組織のみを切除しましたが、これは一般的なのでしょうか?
A 卵巣がんが骨盤内に限局するI、Ⅱ期やⅢ期の一部の卵巣がんでは、初回の手術として、子宮、両側付属器(卵巣・卵管)、大網、後腹膜リンパ節を切除する「ステージングラパロトミー」という根治切除を行います。ⅢC期では、(見えるがんを手術で取りきる)肉眼的根治切除をすると、手術による侵襲(しんしゅう、体への負担)が大きくなって、手術後に合併症を起こしたり、術後の化学療法の実施に支障を来したりすることもあります。そこで、まず侵襲の少ない手術を行って、卵巣がんの広がりや組織診断を確定し、早期に化学療法を開始するという治療戦略を、多くの病院がとっています。特に、腫瘍マーカーが高値で、抗がん剤の感受性が期待できる高悪性度漿液性腺がんでは一般的です。
Q TC療法3サイクル後にCA125は500から30未満に下がり、2度目の手術では腹膜播種を含め、肉眼的根治切除ができました。もし2度目の手術を選択せずに、TC療法の継続で治療したとすれば、どうなっていたのでしょうか?
A TC療法が著効すると、2度目の大きな手術を受けずに治るのではないかと話す患者さんは少なくありません。80歳以上の高齢者や重い合併症(糖尿病や心臓病など)がある場合は、TC療法を6~8サイクル実施してCA125が16未満になれば治療を終了して経過観察する場合もあります。しかし、この場合は数年で再発することが多く、5年生存が難しくなります。2度目に肉眼的根治切除ができれば、ⅢC期でも約50%の5年生存率が期待できます。
Q 2度目の手術後にTC療法を3サイクル追加し、その後に分子標的薬で再発予防をする計画です。私のがん組織のHRD検査(相同組み換え修復欠損という遺伝子検査)は陰性のためPARP(ポリADPリボースポリメラーゼという、2本鎖DNAの修復に関与する物質)阻害剤のニラパリブを長期間内服するとのことですが。
A ニラパリブは、卵巣がんで保険適用のある分子標的薬3種のうちの一つです。適用条件はⅢ期以上の初回治療例で、プラチナ抗がん剤(カルボプラチン)が有効な場合です。ⅢC期卵巣がんの5年生存率は50%ぐらい。それでは不十分なので、昨年から保険適用になったニラパリブの長期内服で再発予防を図り、5年生存率の10~20ポイントの上積み効果を期待しているのです。ぜひ長期内服にチャレンジしてください。
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