山口組分裂抗争8年目 いまだ更地にできない組事務所の裏事情

神戸山口組系2次団体「宅見組」が使用していた組事務所の建物=大阪市中央区
神戸山口組系2次団体「宅見組」が使用していた組事務所の建物=大阪市中央区

暴力団排除の取り組みが全国で広がる中、組事務所を狙った抗争事件が全国で相次いでいる。組事務所は「対面での人間関係を重んじる暴力団にとっては欠かせない」(捜査関係者)。だが、周辺住民にとっては日常生活を脅かしかねない存在だ。近年は暴力団対策法で組事務所の使用や新設が厳しく制限され、排除の動きが強まっている。使用を制限されている暴力団側も行政などの仲介で売却を模索するが、一筋縄ではいかない事情がある。

組幹部が逮捕されても…

大阪市生野区の住宅街。朝夕、登下校中の児童らが行き交う通りの一角にあるビルの出入口には、暴対法に基づき暴力団の出入りや利用が禁じられていることを示す真新しい標章が掲示されていた。

ビルが建つのは、暴対法で特定抗争指定暴力団が事務所を新設することが禁止されている「警戒区域」。このビルの一室に事務所を新設したとして、大阪府警捜査4課が同法違反容疑で特定抗争指定暴力団山口組系3次団体の「柳川興業」会長の劉誠二容疑者(49)を逮捕したのは10月のことだった。

この組は元々、大阪市浪速区に事務所を構えていたが使用が制限されており、昨年7月ごろから新事務所を使っていたとみられる。定例会が開催され、上位団体幹部の出入りも確認されたという。

近くに住む60代の女性は「何事もなくてよかったが、巻き込まれる可能性があったと思うと怖い」と表情を曇らせる。しかし、組幹部の逮捕でその危険が完全に消えたわけではない。

建物がある限り標的に

山口組が分裂した平成27年以降、抗争事件は後を絶たない。組事務所や組幹部の自宅に車が突っ込んだり発砲されたりする事件が続発し、殺人なども含めると分裂以降の7年間で100件以上になる。

組事務所への襲撃は、白昼堂々起きることもあり市民生活にとって脅威だ。特定抗争指定暴力団が事務所を構える地域では、行政などの呼びかけで住民側が使用を差し止めを求めて提訴する動きも広がる。都道府県の暴力団追放センターが住民の代わりに原告となり、全国で十数件の差し止めが認められている。

ただ、使用を差し止めてもそこが組事務所であるという事実に変わりはない。ある捜査関係者は「訴訟は有効な一手だが、建物が残る限り抗争の標的となる可能性は高い」と指摘。「組事務所を完全に撤去するには越えないといけないハードルがある」と明かす。

完全な撤去とは事務所を売却し、暴力団とは無関係な建物とすることを意味する。使用を制限されていても固定資産税などの維持費がかかるため、暴力団側が手放すことを希望するケースも少なくないという。

容易ではない組事務所の売買

ただ、組事務所の売買には特有の難しさがある。暴排に取り組む業者は取引を敬遠。暴追センターなどの仲介で買い手が見つかっても組と無関係であることを慎重に見極める必要があり、売買は容易ではない。

「持っているだけで金がかかって仕方がないはずだ。早く手放したいのではないか」。ある暴力団関係者が話すのは、かつて〝名門〟と呼ばれ、神戸山口組の中核を担ってきた「宅見組」の事務所だ。

宅見組が事務所を構えるのは大阪市中央区千日前。繁華街にも近く、多くの飲食店や商店が軒を連ねるいわば「一等地」だ。警戒区域内にあり、大阪地裁から使用の差し止めを命じる仮処分決定も受けており、宅見組が合法的に事務所を使える見通しはない。

そのため組は売却を模索。水面下では投資家や建設会社が買い取るという噂も絶えないが、地価の高さも影響しているのか、売約は成立していない。

行政が中心となり、組事務所を一掃した〝成功例〟もある。兵庫県尼崎市では9月、山口組分裂時に8カ所あった暴力団関連施設がゼロになった。市内では分裂後、神戸山口組幹部が自動小銃で殺害されるなど凶悪な事件が相次いで発生。市はふるさと納税を活用するなどして予算を計上し、訴訟や事務所の買い取りを推進した。

暴排に長年携わってきた垣添誠雄(もとお)弁護士は尼崎市の取り組みを「官民が連携して取り組むモデルケースとなった」と評価。「組事務所の撤去、その先にある暴力団の解体を目指して、行政が積極的に介入して取り組みを強化すべきだ」と話した。

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