長い時を経たからこそ語れる率直な思いがある。平成23年に起きた東日本震災をめぐる言説や作品はそんなことも教えてくれる。今月発売された主要文芸誌には、震災から11年という時の厚みと重みを感じさせるエッセーと小説が並んだ。
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時の流れはいたずらに風化を加速させるばかりではない。アーティスト、瀬尾夏美のエッセー「置き忘れた声を何度でも訪ねて-映像作品『波のした、土のうえ』再考」(文学界)を読み、改めてそう感じた。瀬尾は平成23年の東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市の人々に取材した作品制作を振り返っている。冒頭でこんな逸話を紹介している。