政府は全国の家庭や企業を対象に12月からの節電を要請する。今夏に続いて電力需給が逼迫(ひっぱく)する恐れがあるためだ。
電力供給の余力を示す供給予備率は、最低でも3%は必要とされる。だが、今冬が厳しい寒さとなった場合、東京電力と東北電力管内の来年1月の予備率は4・1%とぎりぎりの水準だ。
節電要請期間は12月1日から来年3月31日までとしており、全国で数値目標を定めない節電を求める。今夏も節電を要請したが、需要が再び高まる冬場は悪天候で太陽光発電が機能しない場合もあり、節電が不可欠と判断した。
人がいない部屋の照明を消し、暖房温度をいつもより低めに設定して重ね着をするなどの工夫で無理のない節電に努めたい。
世界的なエネルギー価格の高騰で電気料金は1年前よりも2~3割値上がりしている。賢い節電で電力使用を減らせば、その分だけ家計の負担も軽減できる。
企業も節電を徹底しなくてはならない。冬場に電力需給が逼迫して大規模停電に発展すれば、住民の生命や健康にも危険が及ぶ。これを防ぐには、需給に応じて大規模工場などの電力使用を強制制限することも検討すべきだ。
ただし、家計や企業の節電努力のみでは深刻な電力不足に抜本的に対応しきれないことも認識しておく必要がある。今年3月には東日本で電力需給逼迫警報が初めて発令された。こうした事態を回避するには、何よりも電力供給力の整備こそが急務である。
そのためには、安全性を確認した原発の早期再稼働を促すとともに、休廃止が進む火力発電の確保を図る必要がある。原発再稼働が大幅に遅れているのは、安全審査の長期化が原因だ。
老朽設備を中心に火力発電の休廃止が相次ぐのは、電力自由化や脱炭素の進展で火力発電の採算が悪化したためである。その結果の慢性的な供給不足に万全の対応をしなければならない。
政府は休止中の老朽火力発電を再稼働させて電力供給を増やす計画だが、古い設備だけに想定外の故障リスクがある。さらにロシアによるウクライナ侵略に伴い、ロシア産の液化天然ガス(LNG)の対日供給が滞る恐れもある。こうした事態にいかに備えるか。電力の安定供給は政府の責務であることを銘記すべきだ。